<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
人間には元々「自己回復能力」が備わっています。怪我をして血が出てしまっても、あざができても、いつの間にか自然と治っていますよね。これは血液内にある「血小板」という細胞が働くことで、回復しているのです。この能力に着目した治療方法が「PRP療法」です。自分の血液から抽出した成分を使って治療するので、身体への負担や副作用が少ないのも特徴。今回はそのPRP療法について、詳しく解説します。
┃1.PRP療法とは?
怪我をして血が出てしまった時、時間の経過とともに血がとまり、かさぶたができて、そのうち元通りになったという経験を誰しもがしていると思います。PRP療法(多血小板血漿療法)はこのメカニズムを治療に応用した治療法です。
<止血のメカニズム>
そもそも「血がどのように止まるのか」ということから説明します。
血液のなかには「血小板」という止血の役割を担う細胞があります。全身に酸素を運ぶ「赤血球」や、ウイルスなどの異物と戦う免疫細胞「白血球」と並ぶ重要な血液細胞で、骨髄の中にある巨核球(きょかくきゅう)というという細胞が剥がれ落ちて産生されます。突起のあるいびつな形で、核を持っていないのが特徴。黄色っぽい色味をしています。
この血小板は、血管が傷ついて出血したときに活性化。血液の液体成分である「血漿(けっしょう)」に含まれるタンパク質「フィブリノーゲン」によって血小板同士が接着して、傷口から血が出ないよう血栓を作ります。その状態からさらに凝固成分を放出し、他の血小板や赤血球を密着させて強力に止血。これが一般的に言われる「かさぶた」です。
この自己修復の一連の流れを血小板が担っているのです。
血小板にとって重要な役割は止血ですが、そのほかにも血管内の壁を維持するための物質を供給したり、炎症、免疫、感染予防、動脈硬化などにも関わっているとされています。
怪我をして血が出てしまった時、時間の経過とともに血がとまり、かさぶたができて、そのうち元通りになったという経験を誰しもがしていると思います。PRP療法(多血小板血漿療法)はこのメカニズムを治療に応用した治療法です。
PRP療法は血小板の傷ついた組織の修復を促進する物質「成長因子」を利用しています。PRP(Platelet-Rich Plasma)とは、日本語で多血小板血漿と呼ばれているもので、血小板を濃縮して抽出した成分です。PRP療法は、PRPを損傷部位や症状が出ている箇所に注入することで、身体が持っている本来の再生能力を引き出し、組織修復や痛みの軽減などを目指します。
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 頸椎神経根症変形性関節症(膝・足関節など)
- 靭帯損傷(肘・膝・足関節など)
- 膝関節軟骨損傷半月板損傷膝蓋腱炎上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
- 肘内側側副靭帯損傷(内側型野球肘)
- アキレス腱炎
- 足底腱膜炎
- 肉離れ
- 肩腱板損傷
- 手関節TFCC損傷 など
┃2.PRP療法のポイント
PRP療法のポイントについてご紹介します。
<ポイント①副作用が少ない>
>患者さん自身から血液を採集し、その血液から血小板を抽出してPRPを精製します。そのため、アレルギー反応や拒絶反応のリスクが少ないのが特徴です。また身体に傷ができるのは血液採取と、注入時の点滴や注射などのみなので、傷跡が残りづらいのもポイントの1つです。
<ポイント②再生困難な組織の修復促進>
椎間板や軟骨など、再生が難しいとされていた組織は、これまで手術を行う以外、根本的に治療する方法がありませんでした。しかし、PRP療法による再生医療の研究が進んだことにより、手術をしなくても椎間板や軟骨の再生が可能に。自分自身の治癒力を使って根本治療が可能となりました。
<ポイント③日帰りで治療が受けられる>
採血から投与まで日帰りで治療を受けることも可能です。入院などの必要はなく、投与後、30分~1時間ほど安静にする必要がありますが、その日のうちに治療を終えることができます。
手術ほど身体に負荷がかかからないので、「手術が難しい」という高齢者や、「仕事の関係で手術後のリハビリに時間をかけられない」という人にも対応可能です。
<ポイント④他の治療と併用することも可能>
他の治療と併用することも可能です。
例えば、当院では日帰りの腰痛手術とPRP療法を組み合わせた治療を提供しています。手術を行った際、患部にPRPを局所投与することで、損傷部位の修復を促進させ、回復力を高める効果などが期待できます。またPRPは炎症を抑える効果もあるので、痛みや腫れの緩和なども見込めます。
┃3.PRP療法の注意点
PRP療法は保険外適用なので、自費治療になります。新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません。施術後は、定期的に健診にいくなどすることをおすすめします。
また患者さん自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまで個人差があります。
┃4.PRP療法の流れ
当院で行っているPRP療法の流れをご紹介します。
<①採血>
患者さんから、PRP抽出に必要な血液量である26ml~52mlを採取します。
<②PRPの抽出>
採血した血液は、すぐに遠心分離機にかけて攪拌した後、専用のチューブでPRPを抽出します。
<③患部への投与>
抽出されたPRPは患部に投与します。投与方法は注射などで直接患部に作用させる局所投与や、血液から作用させる点滴投与など、症状に応じて判断します。
┃5.まとめ
PRP療法によって、これまで修復させることが難しいとされてきた症状を回復させられる可能性が出てきました。また他の治療法と組み合わせることでより高い効果を期待できるなど、可能性の幅も増えてきています。もしも慢性的な痛みなどで悩んでいる方がいましたら、お気軽にご相談ください。。
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