脳卒中を経験された方や、そのご家族にとって、とても大きな課題となる「後遺症との向き合い方」。リハビリテーションだけでは思うように麻痺の改善がされず、悔しい思いをしている人も少なくないと思います。そこで近年、注目を集めているのが再生医療を使った後遺症治療です。これまで修復不可能とされていた脳細胞や神経細胞を回復できる可能性のある治療法で、現在は国内でも様々な研究が進められています。治療方法によっては治験がお壊れているものも。今回は国内の治験状況についてと、当院が行っている幹細胞を使った再生医療についてご紹介します。

┃1.脳卒中に対する再生医療について

脳卒中に対する再生医療を使った治療は、脳卒中後の機能回復を目指すために行われます。脳卒中から回復したとしても、麻痺で体が動かなくなったり、言葉がうまく離せなくなったりする後遺症に悩まされるケースは少なくありません。これまではリハビリテーションなどの対症療法しか選択肢がありませんでしたが、近年は再生医療を使った治療も広まってきており、「後遺症からの回復を諦めない」という選択肢が生まれています。

＜脳卒中とは＞

脳の血管が破れて出血してしまう「脳出血」「くも膜下出血」、脳の血管が詰まる「脳梗塞」などによって脳細胞がダメージを受ける病気の総称です。出血後、詰まった血管の流れを回復させたり、止血したりしても、損傷した脳細胞自体は自然に回復しないため、後遺症が残ってしまうことがあります。

＞＞脳卒中とは

┃2.脳卒中の後遺症に対する再生医療の治験状況

脳卒中の後遺症に対して、再生医療を使って後遺症の回復を目指す治験は日本国内でも行われています。

脳卒中の中でも特に患者数の多い「脳梗塞」に対しての治験数が増えてきています。今回は、北海道大学が行っている「『脳梗塞慢性期』に対する幹細胞投与の治験」についてと、神戸市立医療センター中央市民病院が行っている「脳梗塞慢性期患者に対する『CD34陽性細胞』投与の治験」をご紹介します。

＜北海道大学の治験について＞

北海道大学では患者さん自身の骨髄を採集して、そこから抽出した幹細胞を使った再生医療の研究を進めています。2017年から2021年の期間に、「脳梗塞亜急性期患者」に対する自家骨髄間葉系幹細胞の脳内投与の臨床研究が行われました。発症から2ヶ月での脳内投与によって良好な麻痺の回復（mRS1点以上の改善率が71%）が認められたとMed誌より発表されています。

この研究結果を元に、適応範囲を広げて慢性期脳梗塞患者さんを対象とした治験の準備を開始。現在は、患者さん自身の骨髄から幹細胞を抽出し、それを使って開発された再生医療等製品を脳内に投与する主治医主導治験を行っています。

2024年6月には、発症から1年以上経過し、麻痺が残っている慢性期脳出血の患者を対象に主治医主導治験「RAINBOW-Hx 研究」の第1例目の投与が終了。さらに、2024年12月1日からは、脳梗塞発症後半年から5年の患者さんを対象とした脳内幹細胞移植の医師主導治験「RAINBOW2a 研究」を開始しました。

＜神戸市立医療センター中央市民病院の治験について＞

神戸市立医療センター中央市民病院では、患者さん自身の血液を使った再生医療の治験に取り組んでいます。治験内容は、薬で増やした体内の白血球を採集した後、その白血球の中から損傷した血管を修復して生き残った神経細胞を活性化する「CD34陽性細胞」を抽出。首の動脈から脳内に「CD34陽性細胞」を投与するというものです。2021年7月に1例目を実施し、2022年4月1日～ 2024年3月31日までの治験結果として「医師主導治験の目標症例数には到達できなかったため少数例の結果 ではあるが、自家末梢血CD34 陽性細胞の内頚動脈内投与について 少なくとも安全性に特筆すべき懸念がないことを確認できた。今後、有効性についても解析予定である」と報告をまとめています。

┃3.脳卒中に対する当院の再生医療について

当院では患者さん自身の体から採集した脂肪細胞を元に幹細胞を培養して、脳内投与を行います。脂肪由来幹細胞（Adipose-derived Stem Cell）を用いた再生医療の一種で、発がん性のリスクが少ないことやご自身から接種したものなので副作用が少なく体への負担も少ないのが特徴です。

＜そもそも幹細胞って何？＞

幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる未分化の細胞です。体の修復能力を持つので、これまで治療ができなかった病気や症状も治すことができる可能性を秘めています。

幹細胞には、分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と、体を構成する様々な細胞に分化できて、ほぼ無限に増殖する能力を持つ「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも「間葉系幹細胞」は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する「体性幹細胞」の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。再生が困難とされている神経や血管、免疫系にも作用する細胞で、損傷した脳神経の回復促進にも効果があるとされています。

＞＞幹細胞治療について

┃4.表参道総合医療クリニックの幹細胞治療の流れ

当院では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する治療を行っています。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。

＜①カウンセリング＞

事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。

＜②検査＞

感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。

＜③脂肪採取＞

腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです

＜④幹細胞の培養＞

脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。

＜⑤幹細胞の静脈内投与、局所投与＞

培養した幹細胞を脊髄の枝である神経根に局所投与もしくは髄腔内に投与します。

＜⑥経過観察＞

治療後の効果について定期的に経過観察を行います。治療効果を確認しながら、リハビリを併用します。

┃5.治療費について

再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです（すべて税込）。

項目	価格
医師による診察・カウンセリング	11,000円
感染症検査（採血）	11,000円
脂肪由来幹細胞点滴投与	1回165万円
脂肪由来幹細胞髄腔内投与	1回198万円

┃6.再生医療のメリットとデメリット

幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。

＜メリット＞

• 患者さん自身の細胞を使っているので安全性が高いです
• 副作用があまりありません
• 今まで対応が難しかった症例でも、根本的な治療ができる可能性があります
• 入院の必要は、外来で治療をすることができます

＜デメリット＞

• 自由診療のため保険は適応されません
• 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
• 患者さん自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまで個人差があります

┃8.まとめ

日々、世界中の研究者が少しでもよくなるようにと研究を重ねています。そして少しずつ、今まで不可能だった治療も可能になってきました。もしかしたら諦めてしまっていることも、何か新しい可能性が生まれているかもしれません。何か気になることがありましたらお気軽にご相談ください。

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