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2025.07.11

悪性腹水って何?良性と何が違うの?? 卵巣がんや胃がんによる腹膜播種が原因の症状解説

内臓の疾患を放置し、症状が進行してしまうと多くの場合「腹水」というものがお腹に溜まります。これはたんぱく質を含む体液が何かしらが原因で腹部に貯留したもの。そしてこの腹水が大量に溜まると、腹部が大きく膨らんでしまいます。また食欲不振や息切れ、便秘などの症状を引き起こし、不快感につながってしまいます。今回はがんが原因の腹水「悪性腹水」について、原因や診断方法、治療法までご紹介します。

<コラム監修者>

田中聡院長

田中聡(たなか さとし)

表参道総合医療クリニック院長


大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。

┃1.悪性腹水とは

悪性腹水とは、がん細胞などの悪性腫瘍によって炎症を起こし、腹腔内に異常な液体がたまってしまう症状です。悪性腹水の原因となるがん種として、卵巣がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、子宮体がんなどが挙げられます。これらが癌が腹膜に転移した「腹膜播種」や、肝臓に複数の転移性腫瘍がある「多発肝転移」、それによる門脈圧の亢進などが原因で、腹水が貯まってしまうのです。

>>腹膜播種とは

同じ腹水でも、良性腹水も存在します。特に卵巣腫瘍で生じる場合が多く、そのほかに心不全、肝硬変、腎疾患などでも発生します。

良性腹水は原因となっている疾患の治療を行うことで改善しますが、悪性腹水の場合は原因となっているがん治療を行うことのほかに、腹水の貯留量の管理を行わなければなりません。

┃2.悪性腹水による症状

悪性腹水は、初期症状だとほとんど自覚症状がありません。がんが進行するにつれて、腹水の貯留量も比例して増えていき、次第に以下のような症状が起こります。

  • 腹部膨満感:腹部が張った感じがして、お腹が大きくなったように見えます
  • 腹痛:腹水がたまることでお腹に痛みを感じることがあります
  • 食欲不振:腹水によって胃が圧迫され、食欲が低下することがあります
  • 吐き気:腹水による胃の圧迫で、吐き気を催すことがあります
  • 息切れ:腹水が肺を圧迫し、空気を取り込みにくくなるため、息苦しくなることがあります
  • むくみ:腹水が下肢につながる静脈やリンパを圧迫し、足のむくみを引き起こすことがあります。場合によっては性器(陰嚢)などがむくむ場合もあります
  • 便秘:腹水が腸を圧迫することで、腸の動きが悪くなり、便秘につながることがあります
  • 倦怠感:本来たまるはずのない腹水が体内に留まることで、体重が増加し、漠然とした不快感、倦怠感を感じることがあります

┃3.悪性腹水の診断方法について

腹水を検査する方法は主に3つあります。

<腹水検査>

直接、腹水を検査する方法です。腹腔内に針を刺して腹水を採取し、検査を行います。主な検査項目は下記表になります。

項目 詳細
見た目 腹水の色や透明度を観察し、感染症や悪性腫瘍の可能性を考察します
たんぱく量 採取した腹水に含まれる総たんぱく量や、肝臓で生成されるタンパク質「アルブミン」の数値を測定し、肝機能の低下が原因の「漏出性腹水」なのか、腹膜の血管透過性亢進やリンパ流の鬱滞による「滲出性腹水」なのかを調べます
細胞調査 免疫を担う白血球の数や、がん細胞の有無を調べて、腹水の原因が感染症や悪性腫瘍なのか可能性を探ります。

これらを見た後、必要に応じて、採取した細胞を顕微鏡で観察する「細胞診」や、結核菌などの抗酸菌を選出するための「抗酸菌染色」、肝臓や唾液腺の疾患を調べる「アミラーゼ検査」などの検査を行います。

<画像検査>

腹水の溜まっている部分を撮影し、判断します。

項目 詳細
腹部超音波検査 超音波で腹水の有無や量を確認するほか、腹膜の腫瘍の有無や腹水の性質や状態まで評価します
CT検査 腹水だけでなく、腹膜の腫瘍の有無や範囲、厚さなどを確認します
MRI検査 CTより詳細の画像診断が必要な場合に撮影します。評価内容はCTと同様です

<組織生検>

組織生検とは、病変の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。細胞診よりも多くの細胞を対象にするので、より細かく診断することができます。

項目 詳細
針生検 病変部分に細い針を刺して、組織を採取します。比較的傷が少なく、短時間で終わるので外来で行うことが可能です
切開生検 手術などで切開し、病変した組織を採取する方法です。病変全体を観察することができるので、より詳細な診断をすることができます
内視鏡下生検 内視鏡で病変部に直接アクセスし、組織を採取する方法です。消化器系の病変部分の診断によく用いられます

┃4.悪性腹水の治療方法

悪性腹水の治療は、根本原因となっている治療と同時進行で進められます。主には腹水の貯留量の管理で、貯留量が多くなりすぎて不調にならないことを目的として行われます。患者さんの希望や状態に沿って治療計画を考えます。

<抗がん剤治療>

抗がん薬を中心とした化学療法はがん進行を遅らせたり改善していくので、それに伴い悪性腹水もよくなる可能性があります。

通常の抗がん剤治療は、注射や点滴で血中に薬剤を流し込んで作用させます。しかし腹水を伴う場合は、腹腔内にがん細胞が広がってしまっているため腹腔内に抗がん剤を直接投与する「腹腔内化学療法」が有効的。腹腔内の薬剤濃度が高くなり、がん細胞に対して治療効果向上が期待できます。全身投与と比較して副作用が少ないのも特徴です。

<利尿剤>

腹水を尿として排出させることで腹部膨満感を軽減し、不快な症状の緩和を行います。

<腹水穿刺ドレナージ>

腹部に針を刺して、腹水を体外に排出させる方法です。一時的な症状改善に有効です。

<腹腔静脈シャント>

腹水と静脈をカテーテルで繋ぎ、腹水を静脈に還流させる方法です。腹部膨満や呼吸困難などの症状緩和に有効的です。

<腹水濾過濃縮再静注法>

腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)は、溜まった腹水を抜き取った後、その腹水を濾過します。そしてアルブミンなどの有用なタンパク質など必要成分を濃縮し、再び体内に戻す治療法です。腹水を体外に排出させるだけでなく、有用な成分の回収もできるので、全身状態の改善が期待できます。

┃5.当院の治療について

通常の抗がん剤治療では、血管への点滴・注射や内服で全身に薬剤を投与しますが、腹腔内化学療法では腹腔内に抗がん剤を直接投与します。腹腔内の薬剤濃度が高くなるため、お腹の中のがん細胞に対しての治療効果向上が期待できます。全身への投与と比較して、副作用が抑えられる点もポイントです。

<当院の腹腔内化学療法>

当院では、パクリタキセルを用いた腹腔内化学療法を自由診療で行っています。投与方法には、以下の2種類があります。

  • 腹腔ポート:お腹の皮膚の下に抗がん剤を注入するポートを留置する方法です。
  • 腹水穿刺:腹腔ポートの代わりにカテーテルを留置します。腹水の量が多い方には、こちらの方法で投与します。

いずれも外来で行えるため、初回から入院不要で治療が受けられます。

治療費は投与1回あたり33万円〜55万円程度で、さらに治療の効果を確認するために9〜12週間に1度のペースで検査が必要です。詳細な金額は患者様によって異なりますので、まずはご相談にお越しください。

<腹腔内化学療法のリスク・副作用>

代表的な副作用は、腹部の膨満感です。腹部ポートからの感染やカテーテルの閉塞などの合併症が起こることもあります。

抗がん剤は腹膜の表面から浸透していくため、深い部分にがんがある場合は薬剤が届かない場合があります。胃の原発巣や転移したリンパ節など、効果が及ばない部分もあります。

>>当院の腹腔内化学療法について、詳しくはこちら

┃6.まとめ

悪性腹水の治療はがん治療とともに進めていかなければいけません。できるだけがん治療に専念するためにも、不快感を取り除くことは重要です。また症状を利用して取り組める治療方法もあるので、まずはどのような治療を臨むのか、医師と相談することをおすすめします。

腹腔内化学療法

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