
胃がんや大腸がん、卵巣がんといった腹部のがんでは、がん細胞がお腹の膜に転移する「腹膜播種」が起こる場合があります。腹膜に転移しても、初期のうちいは症状が乏しく、発見が遅れてしまうことも多々あります。
今回は、腹膜に転移したがんの治療に効果的な「腹腔内化学療法」についてご紹介します。
<コラム監修者>

田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
┃1.腹腔内化学療法って何?
腹腔内化学療法とは、腹腔内に抗がん剤を注入する治療方法です。腹膜播種など、腹部の病変がある場合に、がん細胞を効率的に攻撃できるのがメリットです。
ただし、病巣に対して薬剤が臓器の中に深く浸透するわけではありません。あくまで、病巣の表面や腹膜などに出ている部分に効果を発揮します。
患者さんの状態にもよりますが、通常は外来で行える治療法です。投与後の食事や行動の制限もありません。
<腹膜播種とは>
腹膜播種は、胃や腸などの臓器とお腹の壁の内側を覆っている薄い膜「腹膜」にがんが転移した状態を指します。主に胃がん、大腸がん、卵巣がんなどから転移する場合が多く、腹膜に転移すると種が撒かれたように腹膜にがん細胞が散らばることから腹膜播種という名称がつけられました。
リンパ節転移や肝転移と並んで、腹部のがんでは起こりやすい転移の一つです。
┃2.腹腔内化学療法の順序
実際に腹腔内化学療法を行う場合、どのような手順で治療を進めるのか具体的に解説します。
<①腹腔ポートを留置する>

腹腔内化学療法を開始するに先立ち、抗がん剤を投与するための注入口となる「腹腔ポート」を腹部の皮膚の下に留置します。
腹腔ポートは本体とカテーテルで構成された装置で、注入口となる本体の直径は約3㎝ほどです。カテーテルは直径約5㎜、長さは約30㎝の柔らかい管で、筋肉を貫いて腹腔の中に留置され、薬の通り道となります。
腹水がたまっている患者の場合は、腹腔ポートの代わりにカテーテルを留置して治療に使用することがあります。
<②腹腔内投与の開始>

腹腔ポートに針を指し、生理食塩水500mlを約1時間かけて注入します。このとき、点滴静脈内注射でアレルギーや吐き気を予防するための薬も投与します。
その後、生理食塩水500mlに溶かした抗がん剤を約1時間かけて注入します。合計で1,000mlの生理食塩水が腹腔内全体に広がり、がん細胞を攻撃します。
抗がん剤投与は、約2週間ごとに行います。その都度、経過を観察しながら治療を進めます。
┃3.腹腔内化学療法のメリットとデメリット
腹腔内化学療法のメリットとデメリットをご紹介します。よいところだけでなく、リスクなども把握して納得した上で治療を始めましょう。
<メリット>
- 腹腔内全体に抗がん剤を高い濃度で広げることができる
- 抗がん剤が腹腔内に長く留まるので、効率的な効果が期待できる
- 吐き気、食欲不振といった全身の副作用を抑えられる
<デメリット>
- 感染や閉塞など腹腔ポートに関連する合併症の可能性がある
- 腹膜を刺激することによる、局所の炎症や、腹膜癒着の可能性がある
- 薬の排泄が遅いので腎機能障害が起きることがある
- 1㎜以上の深いところまで薬が届かないので、元々がんが発生した箇所や、リンパ節の転移などには効果が期待できない
┃4.費用について
パクリタキセル腹腔内投与は健康保険が適用されない治療です。その他の薬剤、検査や診察などを含めて保険を使用することができず、費用は患者さんの10割負担となります。初回の投与は外来で行い、その費用額は1回投与で約22〜33万円です。2回目以降も外来で行います。
┃5.まとめ
がんが腹膜播種を起こすと、目には見えないレベルで腹腔内にがん細胞が広がります。手術では取りきれないケースが多く、患者さんたちを苦しめてきました。
腹腔内へ重点的に抗がん剤を届ける「腹腔内化学療法」を行うことで、がんが縮小したり、腹膜播種の症状が軽減したりする例もあります。もしも腹膜播種に苦しんでいるなら、当院までご相談ください。



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