腰部脊柱管狭窄症では、腰痛などの症状がなかなか改善しない場合や、足のしびれ・排尿トラブルなどの重い神経症状がある場合に手術を検討します。しかし「術後の痛みが心配」「仕事が忙しく長期間休めない」といった理由から、手術に踏み切れないこともあるでしょう。近年では痛みや侵襲(体へのダメージ)を抑えられ術後の回復が早まる「低侵襲手術」が普及し、日帰りでも腰部脊柱管狭窄症手術を実施できるようになりました。そこで今回は、腰部脊柱管狭窄症に対する治療選択肢や低侵襲手術について解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
┃1.腰部脊柱管狭窄症とは
脊柱管狭窄症とは、背骨の骨(椎骨)や靭帯が変形して脊柱管が狭くなる病気です。脊柱管は背骨を通るパイプのような管であり、中には神経があります。脊柱管が狭くなると神経が圧迫され、さまざまな症状が現れます。背骨の中でも特に脊柱管狭窄症が起こりやすいのは、腰の部分である腰椎です。腰椎に発症した脊柱管狭窄症を「腰部脊柱管狭窄症」と呼びます。
<主な症状>
腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状は、腰痛、お尻から足にかけての痛み・しびれです。間欠跛行(かんけつはこう)という、歩行中に足の痛みやしびれが強くなり、しばらく休むと症状が軽くなって再び歩けるようになる症状もよく現れます。さらに進行すると、足に力が入りにくい、排尿・排便に関するトラブルが起きるといった神経症状が出ることもあります。
腰部脊柱管狭窄症の症状の特徴は、前かがみの姿勢で楽になることです。たとえば、直立の姿勢で歩くよりもショッピングカートを押しながら歩いたほうが痛みが軽く感じます。
┃2.腰部脊柱管狭窄症の治療選択肢
腰部脊柱管狭窄症の治療は、一般的にまず手術以外の治療法である保存療法から始めます。症状の程度や生活スタイルに応じて、段階的に治療法を選択します。
<保存療法>
保存療法では、主に薬物療法や運動療法、神経ブロック注射などを行います。
【薬物療法】
痛みや炎症を抑える薬や硬くなった筋肉をゆるめる薬、血流を改善する薬などを使用して症状の緩和を図ります。
【運動療法】
筋力の強化や関節の柔軟性向上を目的に、ストレッチやトレーニングを行います。自己流の運動では症状が悪化する場合もあるため、必ず医師や理学療法士の指導のもとで行いましょう。
【神経ブロック注射】
痛みが強い場合、神経の周囲に局所麻酔やステロイドを注入して痛みを和らげる神経ブロック注射を行う場合もあります。
<手術>
保存療法を行っても症状が改善しない場合や、足の動かしにくさ、排尿・排便トラブルなどの強い神経症状が現れている場合、手術を検討します。手術には、神経を圧迫している骨や靭帯を切除して圧迫を取り除く「除圧術」、不安定になった背骨を固定する「固定術」などの術式があります。
┃3.小さな傷で済み術後の回復が早い低侵襲手術
低侵襲手術とは、治療に伴う体へのダメージ(侵襲)を抑えられる手術です。
従来の脊柱管狭窄症手術では皮膚や筋肉を大きく切開する必要があり、術後の痛みの強さや社会復帰に時間がかかる点が課題でした。近年では切開幅が小さい低侵襲手術が普及し、以前よりも体への負担を抑えられるようになっています。
脊柱管狭窄症の低侵襲手術では、小さく切開して細長い内視鏡や鉗子を挿入し、モニターで映像を見ながら手術を行います。傷が小さいため術後の回復が早く、入院不要の日帰り手術も可能です。
┃4.当院の低侵襲な腰部脊柱管狭窄症手術
当院では、患者様の身体的負担を抑える日帰りの腰部脊柱管狭窄症低侵襲手術に対応。また、日帰り手術と再生医療を組み合わせて組織の修復を促す治療も実施しています。
<PEL(脊柱管狭窄症内視鏡下手術)>
低侵襲手術であるPEL(脊柱管狭窄症内視鏡下手術)は7〜8mmの小さな切開で済み、日帰り手術が可能です。大きな切開を伴う除圧術や固定術では全身麻酔が必要ですが、内視鏡下で行うPELは局所麻酔で神経の圧迫を取り除けます。早期に社会復帰したい方や、持病や年齢により全身麻酔下の手術が受けられない方にとって、特に利点の大きい手術です。
<PDR法(経皮的椎間板修復治療)>
損傷した椎間板の再生を促す治療です。患者様の血液から濃縮血小板由来の成長因子を抽出し、損傷した椎間板に投与します。腰部脊柱管狭窄症による腰痛の症状緩和も期待できます。
<SAST法(脊椎幹細胞移植術)>
患者様自身の脂肪から幹細胞を取り出して培養し、椎間板、頚椎、腰椎などに移植する治療法です。幹細胞には傷ついた組織を再生する働きがあり、損傷した椎間板や脊椎の修復を促して腰痛の改善を図ります。
┃5.受診の流れ
<①ご予約>
当院は完全予約制です。WEBまたはお電話にてご予約ください。
<②検査・診察>
問診や各種検査を行い、その結果をもとに当院の日帰り手術・治療の適応となるか判断いたします。場合によっては、保存療法をご提案することもございます。
<③治療>
予約日時にご来院いただき、手術・治療を行います。治療後は院内でしばらくお休みいただき、その日のうちにお帰りいただけます。
<④アフターケア>
1週間後、1か月後など、何回かご来院いただいて経過を評価します。治療後にいつもと違う症状や体調の異変があった場合、すぐにお知らせください。
┃6.まとめ
腰部脊柱管狭窄症による腰痛や下肢痛は、日常生活に大きな影響を及ぼすこともあります。近年では体への負担を抑える低侵襲手術が普及し、日帰りでの手術も可能になりました。当院では日帰り手術と再生医療を組み合わせ、患者様の症状や生活スタイルに応じて治療法をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。
┃YouTubeでも医療知識を紹介しています
今回の内容はYouTubeでも院長の田中がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。
【参考文献】
・腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021(改訂第2版)