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2025.06.18

椎間板再生医療の実用化に向けた研究を解説!実際の治療方法も

これまで、背骨を形成する構造の1つである「椎間板」は修復が不可能な組織とされていました。そのため、腰痛の原因となっている椎間板の治療を施したとしても、腰痛を再発するリスクなどが残ってしまっていました。しかし近年では再生医療の登場により、変性した椎間板を回復させて腰痛の根本的な改善ができるようになってきています。そこで今回は、椎間板再生医療の種類や、有効性・リスクに関する研究結果をご紹介します。

<コラム監修者>

田中聡院長

田中聡(たなか さとし)

表参道総合医療クリニック院長


大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。

┃1.椎間板再生医療とは? 実用化が注目される背景

まずは、椎間板の構造や椎間板が傷む原因、再生医療の実用化が注目される背景を解説します。

<椎間板の構造と役割>

椎間板は、背骨を構成する「椎骨」に挟まれた組織で、衝撃から骨や神経を守るクッションのような役割を果たしています。中心部には「髄核(ずいかく)」というゼリー状の組織があり、その周囲を「線維輪(せんいりん)」というコラーゲンでできた繊維が覆っています。椎間板は背骨にかかる衝撃を吸収し、背骨のスムーズな動きを助けてくれています。

<椎間板が傷む原因>

椎間板は年齢とともに変性していきます。子どもの椎間板は水分量が多く弾力がありますが、年齢とともに髄核の水分が減少し、柔軟性は失われていきます。すると椎間板が潰れやすくなったり、線維輪にヒビが入ってしまったりしやすくなるので、髄核が外に飛び出したり、変形して背骨の中を通る神経を圧迫したりと異常が発生していまいます。それが根本原因となって腰痛や下肢の痛み・しびれなどの症状が出てしまうのです。以下の病気は、椎間板の変性が原因で発症する病気の代表的な例です。

【椎間板ヘルニア】

線維輪から髄核が飛び出し、周辺の神経を刺激して腰痛や下肢の痛み・しびれが出る病気です。まれに排尿トラブルが起こる場合もあります。

>>椎間板ヘルニアについて知る

【脊柱管狭窄症】

背骨の変形や椎間板の変性によって、背骨を通る神経の管(脊柱管)が狭くなり、神経を圧迫する病気です。腰痛や脚の痛み・しびれのほか、間欠跛行(歩いていると脚が痛くなり、少し休むと改善する症状)も特徴的な症状です。

>>脊柱管狭窄症について知る

【腰椎すべり症】

腰の骨(腰椎)が前後にずれる病気です。椎間板や関節のゆるみが原因といわれています。ずれた腰椎が脊柱管を狭めると、脊柱管狭窄症と同様の症状が現れます。

>>腰椎すべり症について知る

【腰部椎間板症】

腰の部分の椎間板が変性し、腰痛が出ている状態です。足のしびれや排尿トラブルを伴うことは、あまりありません。

<なぜ椎間板再生医療が注目されているのか>

椎間板には血流がほとんどなく、栄養が届きにくい組織です。そのため年齢による劣化が始まる時期が他の組織に比べて早く、10代後半から徐々にみずみずしさが失われていきます。組織に届く血液量が乏しいため、変性した椎間板が自然に元の状態に戻ることはありません。例えば椎間板ヘルニアでは、飛び出した髄核が吸収されて症状が収まることはありますが、変性した椎間板自体は回復しているわけではないのです。

このような事情から、これまでの治療は対症療法が中心でした。しかし近年では再生医療が登場し、傷ついた椎間板を修復する方法として注目を集めています。損傷した椎間板そのものを回復させれば、腰痛や下肢痛の根本的な改善につながるため、期待が高まっているのです。

┃2.傷ついた椎間板を修復する再生医療

椎間板の病気に対する治療では、まず薬物療法や運動療法などの保存療法で様子を見て、症状が改善しなければ手術を検討する流れが一般的です。しかし保存療法では十分に症状が改善できない例があり、手術を行っても椎間板自体が回復するわけではありません。そこで近年、根本的な治療法として注目される再生医療の基礎知識とメカニズムを解説します。

<再生医療とは>

再生医療とは、自分自身の幹細胞を使って失われた機能を改善させる治療です。幹細胞には「自己複製」と「分化」という、2種類の能力があります。

幹細胞の種類 詳細
自己複製 自分自身と同じ性質を持った細胞をコピーすること。コピーされた細胞も自己複製能力を持つ。
分化 皮膚の細胞、心臓の細胞、神経の細胞など、特定の役割を持つ細胞に変化すること。

幹細胞は多様な細胞に分化できるため、けがや病気で失った組織や器官を再生させたり、遺伝子の働きを正常な状態に再生させたりする働きが期待できます。現在では、ES細胞やiPS細胞、遺伝子改変技術を駆使し、これまで治療が困難だった病気にも対応できるようになってきました。

現在もさまざまな研究が進められており、今後アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や事故などによる脊髄損傷、心筋梗塞や心筋症などの心疾患、緑内障や黄斑変性などの眼科疾患など、幅広い領域で根本的な治療が可能になると考えられています。

<椎間板再生医療のメカニズム>

椎間板に幹細胞や幹細胞から取り出した成分を注入すると、髄核の変性を抑えたり線維輪に入ったヒビを修復したりする効果が得られます。幹細胞にはホーミング効果(老化した細胞や損傷を受けた細胞に集まっていく性質)があるため、効率よく細胞の再生や修復を促せるのです。また、患者様の血液を取り出して血小板の濃度を高めた「PRP(多血小板血漿)」を、椎間板に注射する方法もあります。血小板には周囲から幹細胞を呼び寄せて傷の修復を促す作用があるため、症状の改善が期待できるのです。

>>幹細胞治療について詳しく知る

┃3.椎間板再生医療の種類と特徴

椎間板再生医療には複数のアプローチがあり、それぞれに特徴があります。ここでは代表的な4つの治療法を紹介します。

<PRP療法>

血小板の濃度が高い「PRP(多血小板血漿)」を身体の傷んでいる部位に注入し、修復を促す治療です。PRPは、患者様から採取した血液を遠心分離機にかけて生成します。自分の血液を使用するため、アレルギーや拒絶反応が起こるリスクが低いことが特徴です。椎間板のほか、靭帯や関節の損傷、肉離れなど、幅広い領域で使用されています。治療後には一時的に痛みが出るほか、効果の現れ方には個人差があります。

>>PRP療法(多血小板血漿)の詳細はこちら

<PDR>

PDR(経皮的椎間板再生治療)は、患者様の血液から濃縮血小板由来の成長因子を抽出し、損傷した椎間板に成長因子と幹細胞上清液を投与する治療法です。

種類 詳細
成長因子 細胞の増殖や成長を助ける物質
幹細胞上清液 幹細胞を培養した後の上澄み液。成長因子やサイトカインなど、細胞の修復を助ける物質を多く含んでいる

保険適用外のため自由診療になりますが、椎間板性の腰痛がなかなか治らない方など、長期間にわたる慢性的な痛みに悩む患者を助けられる可能性がある新たな治療選択肢の一つです。治療後には内出血、腫れ、発赤、疼痛、かゆみ、変色、圧痛などの症状が出ることがあり、効果が現れるまでは一般的に3〜6ヵ月かかります。

>>PDRの詳細はこちら

<SAST>

「SAST(脂肪由来幹細胞治療)」は、脂肪由来の幹細胞を椎間板、頸椎、腰椎などに移植し、損傷した組織の再生、修復を促す治療法です。治療に使う脂肪由来幹細胞は、患者様の腹部や太ももから採取した脂肪を元に培養します。もともと自分の細胞であるため、体に戻したときに副作用のリスクが低いことが特徴です。一方、患者様自身の再生力を利用するため、効果が現れるまでの期間には個人差があります。また、治療後は内出血、腫れ、発赤、疼痛、かゆみ、変色、圧痛などが発生することがあります。

>>SASTの詳細はこちら

<椎間板移植術>

椎間板移植術は、椎間板から髄核細胞を取り出して体外で活性化させ、椎間板に移植して再生させる治療法です。東海大学が筆頭となって研究が進められており、2008年には臨床試験も行われました(※参考文献1)。現在は他人の髄核細胞を培養して患者に移植する技術開発が進められています。

┃4.椎間板再生医療に関する近年の研究結果

2024年、藤田医科大学整形外科学講座のグループが、椎間板に対するPRPの有効性と安全性に関する研究成果を報告しました。この研究は、椎間板と椎骨の接合部である椎体終板に変化が生じた状態「モディック変性(Modic変性)」のMRI所見が確認できる腰痛患者10人にPRP注射を行い、半年間経過を観察したものです。PRP投与後、対象患者全員に有害事象はありませんでした。また半年後、個人差はあるものの、MRIでは患部の炎症が沈静化しており、対象患者全員に腰痛の改善傾向が見られたとのことです(※参考文献2)。

そのほか、PDRに関しても、椎間板変性に起因する腰痛に対して濃縮血小板由来の成長因子は有効であるとする論文がいくつか出ています。2016年に出版された論文には、29人への臨床研究では、PRP投与後2年間の追跡調査を行った結果が掲載されています。そこでは、慢性的な痛みと機能面において改善が見られたとの報告がされていました(※参考文献3)。

┃5.まとめ

当院は、腰痛日帰り手術と再生医療を中心に診療しています。椎間板変性による腰痛に対しては、現在「PRP療法」「PDR」「SAST」に対応。腰痛治療を専門とした医師が在籍し、再生医療治療計画を受理されているクリニックです。内視鏡手術の経験を積んだ医師が、入院不要の日帰り手術も行います。患者様のご希望に寄り添った治療法を提案しますので、腰痛や下肢痛にお悩みならぜひご相談ください。

再生医療

【参考文献】
1.東海大学「椎間板再生医療の研究」
2.藤田医科大学「特定認定再生医療等委員会の承認のもと、国内で初めて椎間板への多血小板血漿(PRP)注射の安全性と有効性を検証」
3.「Intradiscal platelet-rich plasma (PRP) injections for discogenic low back pain: an update」Michael Monfett・Julian Harrison・Kwadwo Boachie-Adjei・Gregory Lutz、2016 Jun;40(6):1321-8.

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