院長ブログ

2025.11.28

iPS細胞由来網膜の可能性と実用化に向けた課題とは?今できる再生医療も解説

iPS細胞 網膜

京都大学の山中伸弥教授が2007年に世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞して以降、再生医療には一層大きな注目が集まっています。しかし、iPS細胞による治療の実用化には、がん化をはじめとした安全性の懸念や、高額なコストなどの課題があることも事実です。

今回は、神戸アイセンター病院のiPS細胞による網膜移植に関する報告を紹介し、iPS細胞への期待と実用化に向けた課題を解説します。幹細胞治療やPRP療法など、現在受けられる再生医療についても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

<コラム監修者>

田中聡院長

田中聡(たなか さとし)

表参道総合医療クリニック院長


大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。

┃1.iPS細胞による網膜移植から10年後もがん化せず

<iPS細胞とは?>

iPS細胞は、皮膚や血液から採取した細胞にリプログラミング因子という遺伝子群を導入し、人工的につくった多能性幹細胞です。多能性幹細胞は特定の組織の細胞に分化する前の細胞で、網膜、神経、軟骨など、さまざまな細胞に分化する能力を持っています。

iPS細胞には、加齢や病気、外傷などによって損傷を受けた組織・臓器の機能を回復したり、新しい薬の開発に役立てたりといった活用方法が期待されています。今までは治療が困難だった病気の根本改善につながる可能性もあるでしょう。

<iPS細胞由来の網膜移植から10年経ってもがん化しなかった例も>

以前から、iPS細胞による治療の懸念点とされているのが、移植した細胞のがん化です。細胞に遺伝子を導入する過程でゲノムに傷がついたり、移植の際に未分化の細胞が残っていたりすることが、腫瘍を形成する原因になると考えられています。

長期的なデータはまだ十分ではないものの、2014年と2017年に神戸アイセンター病院が行ったiPS細胞由来の網膜移植の例(2014年1例、2017年5例)では、重大な合併症は確認されていません。

たとえば、2014年の症例は当時70代の加齢黄斑変性患者で、既存の治療を行っても効果が十分に得られず、失明する危険もあるとされていました。そこで、2014年にiPS細胞由来の網膜を移植し経過観察を続けたところ、10年経過した2024年11月時点でも視力が維持でき、がん化も確認されませんでした。

このケースは、iPS細胞の長期的な安全性を示す根拠の一つとなる可能性があるでしょう。

┃2.iPS細胞への期待と実用化に向けた課題

神戸アイセンター病院では、上記の症例を含めたiPS細胞移植の臨床研究結果から、ほかの目の病気に対する治療法の開発も進めています。

たとえば網膜色素変性症は、遺伝子の変異によって網膜に異常が起こり、視野が狭くなったり視力が低下したりする難病です。まだ確立した治療法がなく、iPS細胞から作製した網膜による治療法の開発が期待されています。

そのほかにも、外傷で神経が切断されてしまった場合に神経細胞を移植してつなぐ、糖尿病患者に対して血糖値を調整する細胞を移植するなど、さまざまな疾患・外傷治療への活用が考えられるでしょう。

また、病気のメカニズム解明や新薬の開発においても役立つと期待されています。

<実用化に向けた課題>

安全性の面では、移植したiPS細胞のがん化が大きな懸念の一つです。国内外で安全性を向上させる技術の開発が進められており、先述した網膜疾患のほか、脊髄損傷、パーキンソン病、心不全、血液疾患などにおいても、iPS細胞移植の治験や臨床研究が始まっています。

安全性のほか、コスト面の問題も無視できません。現在、iPS細胞の製造は手作業で、1人当たり数千万円と莫大なコストがかかります。1人当たり100万円程度で製造できる体制を目指し、機械化などの技術開発が進められている最中です。

┃3.現在受けられる再生医療とは?

iPS細胞はまだ実用化に至っていませんが、幹細胞治療やPRP療法、幹細胞培養上清液などの再生医療を扱う医療機関はあります。当院でも、以下のような再生医療に対応しております。

<幹細胞治療>

患者さんの脂肪や歯髄から採取した幹細胞を培養し、点滴や注射で投与します。ご自身の幹細胞を使用するため、拒絶反応やアレルギーのリスクが抑えられるのが特徴です。腰痛や関節痛のほか、脳卒中の後遺症や認知症など、さまざまな疾患に効果が見込めます。

【費用】

脂肪由来幹細胞点滴投与:1回165万円
脂肪由来幹細胞髄腔内投与:1回198万円

<PRP療法>

PRP療法(多血小板血漿療法)は、患者さん自身の血液から血小板を抽出・濃縮し、患部に注射する治療法です。血小板にはさまざまな成長因子が含まれており、組織の修復を促す効果が期待できます。

【費用】

1ヶ所55万円

<PDR(経皮的椎間板再生治療)>

損傷した椎間板の再生を促す治療方法です。患者様の血液から濃縮血小板由来の成長因子を抽出し、幹細胞上清液とともに損傷した椎間板に投与します。内視鏡手術やレーザー治療と併用することも可能です。

【費用】

1ヶ所:110万円
2ヶ所:121万円
3ヶ所:132万円
4ヶ所:143万円

<iPS幹細胞培養上清液>

iPS幹細胞培養上清液は、iPS細胞を培養する溶液の上澄みです。溶液には、細胞から分泌された成長因子やサイトカイン、エクソソームなどのさまざまな成分が含まれており、細胞の再生力を高める働きが期待できます。

【費用】

1回:33万円
4回:110万円
8回:176万円

<再生医療のメリットと注意点>

再生医療を活用すれば、神経や軟骨、椎間板など、自然修復がほとんどできない、または修復に時間がかかる組織の回復を促進できます。脊椎疾患や変形性関節症、スポーツ傷害、神経変性疾患、心臓・血管疾患など、さまざまな疾患・外傷への効果が期待できるでしょう。

ただし、再生医療は新しい治療法であり、長期的な効果やリスクに関するデータが十分ではありません。また、自由診療なので治療費は全額自己負担となります。

┃4.再生医療をご希望なら当院にご相談を

当院では、幹細胞治療、PRP療法、PDR、iPS幹細胞培養上清液などの再生医療を行っています。

一般的な治療を行っても十分な効果が得られない方や、脊椎疾患などの手術をできるだけ避けたい方、病気・ケガからの回復を早めたい方など、さまざまなお悩みに対応いたします。患者さんのご希望に沿った治療法を提案しますので、まずはご相談ください。

┃YouTubeでも医療知識を紹介しています

今回の内容はYouTubeでも田中院長がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。



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