新型コロナウイルス感染症の症状がおさまっても、倦怠感、集中力低下、味覚・嗅覚障害などの後遺症が残るケースがあります。多くの場合は自然に改善しますが、中には数ヶ月以上長引くケースも。今回は、新型コロナ後遺症の症状や一般的な治療法に加え、再生医療による新しい治療選択肢も解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.新型コロナウイルス感染症の後遺症とは?
2.新型コロナ後遺症が起こる原因
3.型コロナ後遺症の一般的な治療法
4.新型コロナ後遺症に対する再生医療の可能性
5.再生医療を活用した当院の新型コロナ後遺症治療
6.まとめ
┃1.新型コロナウイルス感染症の後遺症とは?
新型コロナウイルス感染症の急性期がおさまった後も何らかの症状が残る場合があり、これを「罹患後症状」または「後遺症」と呼びます。
厚生労働省では、後遺症を以下のように定義しています。
COVID-19に罹患した後に、感染性は消失したにもかかわらず、他に原因が明らかでなく、罹患してすぐの時期から持続する症状、回復した後に新たに出現する症状、症状が消失した後に再び生じる症状の全般
新型コロナウイルス感染症の後遺症が残っていても、発症から7〜10日以上経過していれば他人に感染させることはありません。しかし、症状の程度によっては仕事や学業、日常生活に支障をきたすことがあります。
<新型コロナ後遺症の症状>
新型コロナ後遺症で一般的によくみられるのは、以下のような症状です。
- 倦怠感(疲れやすさ)
- 咳・痰
- 発熱・微熱
- 息苦しさ
- 味覚障害・嗅覚障害
- 胸の痛み
- 気分の落ち込み、不安感
- 集中力・記憶力の低下(ブレインフォグ)
デルタ株以前では多かった味覚障害・嗅覚障害がオミクロン株では減少し、咳・痰や倦怠感を感じる人の割合が増えるなど、症状の頻度は変異株によっても異なります。また、どれか一つの症状が現れる場合もあれば、複数の症状が同時に現れる場合もあります。
┃2.新型コロナ後遺症が起こる原因
新型コロナ感染症後の後遺症が起こる正確なメカニズムは、まだはっきりと解明されていません。臓器や組織へのウイルス残存や自己免疫の過剰反応など、さまざまな説が検証されています。
後遺症の発症に、脳や神経のダメージが関わっているのではないかとする説もあります。たとえば、ブレインフォグや気分の落ち込みには、ウイルス感染による脳や中枢神経の炎症が関わっていると見られています。また、味やにおいを脳に伝える神経がウイルスによってダメージを受けると味覚・嗅覚障害が起こるなど、全身の後遺症との関連も指摘されています。
┃3.新型コロナ後遺症の一般的な治療法
多くの場合、症状がよくなったり悪化したりを繰り返しながら、時間の経過とともに少しずつ改善していきます。現在のところは根本的な治療法が確立していないため、症状を和らげる対症療法が治療の中心です。
治療法は症状によって変わりますが、一般的には以下のような治療を行います。
- 鎮痛薬:頭痛や関節痛を緩和する
- 抗うつ薬・抗不安薬:気分の落ち込みや不安感を和らげる
- 漢方薬:症状に応じて適切な漢方薬を処方する
- 嗅覚刺激療法:特定の香りを繰り返し嗅いで嗅覚の回復を促す
体調に応じて無理のない範囲で活動する、集中力を保てるように仕事環境を整える、食事のバランスや生活リズムを整えるなど、日常生活上の工夫も重要です。
┃4.新型コロナ後遺症に対する再生医療の可能性
新型コロナ後遺症に対して再生医療を行うと、回復を早める効果が期待できます。新型コロナ後遺症の発症メカニズムはまだ解明されていないものの、脳の炎症や神経のダメージが原因の一つではないかと考えられています。神経のダメージが自然に回復するまでには時間がかかりますが、再生医療を活用すれば傷ついた組織の修復が促進され、症状の改善が期待できるのです。
ここからは、当院で行っている再生医療を活用した新型コロナ後遺症治療を紹介します。
┃5.再生医療を活用した当院の新型コロナ後遺症治療
当院では、「サイトカインカクテル療法(点鼻治療)」と「サイトカインカクテル療法(点滴治療)」による新型コロナウイルス感染症の後遺症治療を行っています。サイトカインカクテル療法は、抜いた直後の歯から取れる「歯髄幹細胞」が分泌するサイトカインを利用して幹細胞を活性化させ、組織の修復を促す再生医療です。
<サイトカインカクテル療法(点鼻治療)>
点滴よりも点鼻のほうが、脳や中枢神経に成分が届きやすい特徴があります。ブレインフォグや精神症状、味覚・嗅覚障害などの後遺症治療には、点鼻のほうがより適しているといえるでしょう。
初診時は医師により点鼻投与をし、その後1ヶ月分の点鼻薬を併せて処方。ご自身で毎日投与いただけます。症状の改善効果を高めるためには、まず1〜2週間おきに点鼻を行うのが一般的です。
*1Inoue, T., Sugiyama, M., Hattori, H., Wakita, H., Wakabayashi, T., and Ueda, M.(2013). Stem cells from human exfoliated deciduous tooth-derived conditioned medium enhance recovery of focal cerebral ischemia in rats. Tissue Eng. Part A 19, 24–29. doi: 10.1089/ten.TEA.2011.0385
鼻粘膜損傷に対しての点鼻治療:Jegadevswari Selvarajah, Aminuddin Bin Saim, Ruszymah Bt Hj Idrus and Yogeswaran Lokanathan. Current and Alternative Therapies for Nasal MucosaInjury: A Review. Journals IJMS Volume 21 Issue 2. 10.3390/ijms21020480
アルツハイマー病、認知症の予防、記憶障害(物忘れ)の改善:Kazuhiro Kojima, Ichiro Kawahata, Hisanao Izumi, Sei-ichi Yoshihara, Katsuyuki Oki, Kohji Fukunaga. Intranasal Administration of ConditionedMedium from Cultured Mesenchymal StemCells Improves Cognitive Impairment inOlfactory Bulbectomized Mice. Advances in Alzheimer's Disease > Vol.9No.3, September 2020
【特徴】
- 発症後の年数に関わらず効果が期待できる
- 手術や痛みを伴わないため、対象年齢に制限がない
- 回復期・慢性期(維持期)の後遺症にも有効
- 腫瘍化・がん化しないタンパク質(サイトカイン)を使用した治療法である
- 低価格(※従来の治療法との比較において)
【注意事項】
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていない
- 自己の再生力を利用した治療法のため、有効性や効果が現れるまでの期間に個人差がある ・ごくまれに、アレルギー反応が起こる場合がある
【乳歯歯髄幹細胞およびサイトカインカクテルに関する報告】
- 乳歯歯髄幹細胞は増殖能と分化能に優れ、免疫原性(アレルギー反応など)も低い
- 歯髄幹細胞移植による下肢運動機能の回復効果は骨髄由来の幹細胞より強力である
- 歯髄幹細胞が神経外胚葉と中胚葉の性格を兼ね備えた幹細胞である
- 幹細胞移植治療における機能障害の回復効果は、移植細胞によって分泌された成長因子(サイトカイン)によるparacrine効果(自己以外の細胞から分泌された物質が、自己の細胞に影響を与えることによる効果)が大きいとされている
- 乳歯歯髄由来サイトカインカクテルの効果は、サイトカインによる①神経栄養保護作用、②血管新生作用、③神経再生作用であると考えられている
- 点鼻投与は、嗅球から細胞間質を経て脳介在部につながる経路、および三叉神経から脳幹、脊髄につながる経路に作用し、内服や点滴よりもスピーディに高濃度の成分を脳や中枢神経に届けられる
【治療の流れと費用】
1週間間隔で4回行い、評価をします。
- 1クール:4回 330,000円
- 1回(2週間分):88,000円
<サイトカインカクテル療法(点滴治療)>
症状やご希望によっては、点滴も選択肢になります。
【治療の流れと費用】
1~2週間間隔で投与します。
- 1回:165,000円
- 4回:550,000円
- 8回:990,000円
┃6. まとめ
新型コロナウイルス感染症の後遺症の多くは徐々に改善していきますが、症状が長引いて生活に影響を与えることもあります。一般的な対症療法のほか、再生医療で症状を緩和する選択肢もありますので、後遺症でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
┃YouTubeでも医療知識を紹介しています
今回の内容はYouTubeでも田中院長がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。