新型コロナウイルス感染症による症状がおさまっても、味覚障害や嗅覚障害が残るケースが少なくありません。このような後遺症は自然に治ることもありますが、中には長引く場合も。今回は、味覚障害・嗅覚障害の症状・原因や一般的な治療法、再生医療による新しい治療法の可能性について解説します。新型コロナウイルス感染症による症状がおさまっても、味覚障害や嗅覚障害が残るケースが少なくありません。このような後遺症は自然に治ることもありますが、中には長引く場合も。今回は、味覚障害・嗅覚障害の症状・原因や一般的な治療法、再生医療による新しい治療法の可能性について解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.味覚障害・嗅覚障害の症状と原因
2.新型コロナウイルス感染症による味覚障害・嗅覚障害の一般的な経過
3.新型コロナウイルスによる味覚・嗅覚障害の一般的な治療法
4.味覚障害・嗅覚障害に対する再生医療の可能性
5.当院で行う新型コロナ後遺症に対する再生医療
6.まとめ
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┃1. 味覚障害・嗅覚障害の症状と原因
味覚障害・嗅覚障害の症状は一様ではなく、新型コロナウイルス感染症の後遺症以外の原因もあります。まずは、症状と原因について解説します。
<味覚・嗅覚障害の症状>
まったく味やにおいを感じない、味やにおいが薄く感じる、一部の味・においだけ分からなくなるなど、症状の程度はさまざまです。食べ物がいつもと違う味に感じる・口の中に何も無いのに味を感じるといった異味症、本来とは違うにおいを感じる・不快なにおいをずっと感じるといった異臭症も、味覚・嗅覚障害の一種。中には、食べ物が臭く感じて食事ができないなど、生活に支障が出るほどの症状が出る場合もあります。
<新型コロナウイルスによる味覚・嗅覚障害はなぜ起こる?>
新型コロナウイルス感染症の後遺症で味覚・嗅覚障害が起こるのは、味を感じる「味蕾細胞」やにおいを感じる「嗅細胞」、さらに味やにおいを脳へ伝える神経がウイルスによってダメージを受けるためと考えられています。一般的な風邪やインフルエンザでも味覚・嗅覚障害が起こることはありますが、新型コロナウイルス感染症の後遺症では風邪の場合よりも若い世代の発症が多い、異臭症の頻度が高いといった違いがあります。
そのほか、味覚障害・嗅覚障害には以下のような原因も考えられます。
【味覚障害の場合】
- 亜鉛・鉄・ビタミンの不足
- 舌の炎症
- 頭部のケガ
- 脳や神経の病気(脳腫瘍、脳卒中、アルツハイマーなど)
- 手術や薬剤の影響
- ストレス など
【嗅覚障害の場合】
- 副鼻腔炎
- アレルギー性鼻炎
- 頭部のケガ
- 脳や神経の病気(脳腫瘍、脳卒中、アルツハイマーなど)
- 手術や薬剤の影響
- ストレス など
┃2. 新型コロナウイルス感染症による味覚障害・嗅覚障害の一般的な経過
多くの場合、新型コロナウイルス感染症による味覚障害・嗅覚障害の持続期間は、1週間から数ヶ月です。しかし、中には1年以上経っても異味症や異臭症が続くなど、後遺症が長引く方もいます。症状の程度や回復スピードには個人差があるため、適切な検査と治療を受けることが重要です。
┃3. 新型コロナウイルスによる味覚・嗅覚障害の一般的な治療法
まずは適切な検査を行って、味覚障害か嗅覚障害か判断します。自覚症状としては「味がしない」と思っていても、嗅覚障害によって風味がしないために味覚がなくなっているように感じる場合もあるため、検査が必要です。
<味覚障害の場合>
味覚障害の場合、亜鉛の補充や漢方薬の服用、ステロイド薬の内服・外用などを行います。特に亜鉛は味蕾の再生に不可欠な成分で、体内で合成できないため薬剤や食品で補う必要があります。漢方薬では、血行をよくして全身の水分を調節する「当帰芍薬散」がよく使用されています。
<嗅覚障害の場合>
嗅覚障害の場合、嗅覚刺激療法、漢方薬の服用、ステロイド点鼻などの治療法があります。嗅覚刺激療法は、レモン、バラ、ユーカリ、クローブなどの香りを、1日2回10秒ずつ嗅ぐ治療法です。漢方薬では味覚障害と同様に当帰芍薬散を使用することが一般的で、場合によってはステロイド点鼻薬も併用します。
┃4. 味覚障害・嗅覚障害に対する再生医療の可能性
新型コロナウイルス感染症後の味覚障害・嗅覚障害が長引く場合、味やにおいにかかわる神経がダメージを受けていると考えられます。損傷の程度にもよりますが、神経の修復には時間がかかるため、症状が長期間続く傾向があるのです。
再生医療では、ダメージを受けた神経や組織の自己再生力を高める効果が期待できます。神経の再生スピードを速めて機能回復を促すため、味覚障害・嗅覚障害の早期改善が期待できます。薬物療法や嗅覚刺激療法だけでは十分に改善しない方にとっての、新しい選択肢といえるでしょう。
┃5. 当院で行う新型コロナ後遺症に対する再生医療
当院では、「サイトカインカクテル療法(点鼻治療)」と「サイトカインカクテル療法(点滴治療)」による新型コロナウイルス感染症の後遺症治療を行っています。
サイトカインカクテル療法は、歯髄幹細胞から分泌されるサイトカインを利用して幹細胞を活性化させ、ダメージの修復を促す再生治療です。投与方法には点鼻と点滴がありますが、点鼻投与は痛みがほとんどなく脳や中枢神経に成分が届きやすいため、新型コロナ後遺症治療により適しています。
<サイトカインカクテル療法(点鼻治療)>
点鼻によって脳神経に乳歯幹細胞培養上清液を届けます。その結果、損傷を受けた脳の神経細胞を再生することが期待でき、症状の改善を見込める治療法です。初診時は医師により点鼻投与をし、その後1ヶ月分の点鼻薬も併せて処方。ご自身で毎日投与いただけます。症状の改善効果を高めるためには、まず1〜2週間おきに点鼻を行います。
*1Inoue, T., Sugiyama, M., Hattori, H., Wakita, H., Wakabayashi, T., and Ueda, M.(2013). Stem cells from human exfoliated deciduous tooth-derived conditioned medium enhance recovery of focal cerebral ischemia in rats. Tissue Eng. Part A 19, 24–29. doi: 10.1089/ten.TEA.2011.0385
鼻粘膜損傷に対しての点鼻治療:Jegadevswari Selvarajah, Aminuddin Bin Saim, Ruszymah Bt Hj Idrus and Yogeswaran Lokanathan. Current and Alternative Therapies for Nasal MucosaInjury: A Review. Journals IJMS Volume 21 Issue 2. 10.3390/ijms21020480
アルツハイマー病、認知症の予防、記憶障害(物忘れ)の改善:Kazuhiro Kojima, Ichiro Kawahata, Hisanao Izumi, Sei-ichi Yoshihara, Katsuyuki Oki, Kohji Fukunaga. Intranasal Administration of ConditionedMedium from Cultured Mesenchymal StemCells Improves Cognitive Impairment inOlfactory Bulbectomized Mice. Advances in Alzheimer's Disease > Vol.9No.3, September 2020
【特徴】
- 発症後の年数に関わらず治療が可能で効果が期待できる
- 手術や痛みを伴わないため、対象年齢に制限がない
- 回復期・慢性期(維持期)の後遺症にも有効
- 腫瘍化、がん化のないタンパク質(サイトカイン)を使用した治療法である
- 低価格(※従来の施術法との比較において)
【注意事項】
新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません。自己の再生力を利用した治療法のため、効果や効果が現れるまでの期間に個人差があります。ごく稀に、発疹(アレルギー反応)がみられることがあります。
【乳歯歯髄幹細胞およびサイトカインカクテルに関する報告】
- 乳歯歯髄幹細胞は増殖能と分化能に優れ、免疫原性(アレルギー反応など)も低い。
- 歯髄幹細胞移植による下肢運動機能の回復効果は骨髄由来の幹細胞より強力である。
- 歯髄幹細胞が神経外胚葉と中胚葉の性格を兼ね備えた幹細胞である。
幹細胞移植治療における機能障害の回復効果は、移植細胞によって分泌された成長因子(サイトカイン)によるparacrine効果(自己以外の細胞から分泌された物質が、自己の細胞に影響を与えることによる効果)が大きいとされています。
乳歯歯髄由来サイトカインカクテルの効果は、サイトカインによる①神経栄養保護作用、②血管新生作用、③神経再生作用であると考えられています。点鼻投与は、嗅球から細胞間質を経て脳介在部につながる経路、および三叉神経から脳幹、脊髄につながる経路に作用し、内服や点滴よりもスピーディに高濃度の成分を脳や中枢神経に届けられます。
【治療の流れと費用】
1週間間隔で4回行い、評価をします。
1クール:4回 330,000円
1回(2週間分):88,000円
<サイトカインカクテル療法(点滴治療)>
【治療の流れと費用】
1~2週間間隔で投与します。
1回:165,000円
4回:550,000円
8回:990,000円
<注意点>
幹細胞培養上清液治療やサイトカインカクテル療法の効果には個人差があり、新しい治療法であるために長期的な効果や安全性に関するデータもまだ十分ではありません。当院では患者さんの症状やお悩みに合わせて再生医療のメリット・デメリットをご説明しますので、まずはご相談ください。
┃6. まとめ
新型コロナウイルス感染症後の味覚・嗅覚障害の多くは自然に回復しますが、中には1年以上長引く場合もあります。再生医療で症状の改善が目指せる可能性もありますので、お悩みの方はぜひ点鼻治療をご相談ください。
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