
さまざまな原因で生じる膝の痛み。手術しないで治す方法がないか、探している人も多いでしょう。今回は、変形性膝関節症をはじめとする膝の痛みの原因や従来の治療法、手術せずに膝の痛みを治せる可能性がある再生医療について解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
┃1.膝の痛みの原因となる主な疾患

膝の痛みの原因によって治療方針が変わる場合もあるため、適切な診断が重要です。まずは、膝の痛みの原因となる代表的な疾患を紹介します。
<変形性膝関節症>
変形性膝関節症は、膝の痛みを引き起こす代表的な疾患です。変形性膝関節症の原因は、年齢や筋肉の衰え、肥満、O脚・X脚、スポーツによる損傷など。これらの要因で膝の軟骨がすり減り、膝が変形して痛みが生じます。膝が痛むために体を動かさないでいると、さらに筋力が落ちて痛みが悪化することも。初期は歩き始めや立ち上がりの際に違和感を感じる程度ですが、進行すると歩行も困難になります。
<半月板損傷>
半月板は、膝の外側と内側にある半月状の軟骨です。膝を安定させる役割や、膝にかかる体重を分散させるクッションの役割があります。スポーツや転倒で膝を強くひねったときに半月板損傷が起こりやすく、膝を曲げるときの痛みや引っ掛かり、動かしづらさ(ロッキング)などの症状が現れます。中高年の方の場合、軽いひねりや衝撃で半月板が損傷することもあるため、日常生活でも注意が必要です。
<靭帯損傷>
膝の靭帯には、前十字靭帯・後十字靭帯・内側側副靭帯・外側側副靭帯があり、骨と骨をつないで膝を安定させています。靭帯損傷の原因はスポーツ中の急停止や方向転換、事故など。靭帯が損傷すると膝に痛みが生じ、とくに靭帯が完全に切れる「靭帯断裂」では激しい痛みが出ます。痛みは数週間程度で引いてきますが、治療をせずに放置すると膝のぐらつきが残り、関節に余分な負担がかかって将来的に変形性膝関節症を引き起こしやすくなるリスクがあります。
<関節リウマチ>
関節リウマチは、免疫の異常によって慢性的に関節の炎症が起こる自己免疫疾患です。膝だけでなく手首や指など全身の関節に腫れや痛みがある、起床の直後に関節のこわばりが出る、関節痛だけでなく発熱や倦怠感などの症状もあるといった特徴があります。膝に発症した場合の症状は変形性膝関節症と似ていますが、治療法が異なるため検査を行って診断を受けることが重要です。
┃2.変形性膝関節症の一般的な治療法
膝の痛みを起こす疾患の中で頻度が高い、変形性膝関節症の一般的な治療法を解説します。まずは手術以外の保存療法を行い、改善しない場合や症状が強く日常生活に支障が出ている場合に手術を検討するのが一般的です。
<保存療法>
保存療法では、手術以外の方法で膝の痛みを和らげ、変形の進行を抑えることを目指します。
【薬物療法】
消炎鎮痛薬(NSAIDs)などの薬剤で炎症や痛みを抑えます。
【運動療法】
足腰の筋力を強化して膝への負担を和らげ、ストレッチも取り入れて膝の動きの維持を目指します。
【体重管理】
体重が増えると膝への負担が大きくなるため、適正体重を超えている場合は生活習慣を見直します。
【ヒアルロン酸注射】
ヒアルロン酸を関節内に注入し、関節のなめらかな動きを助けます。
【装具療法】
サポーターやインソールなどの装具を使用する場合もあります。
<手術療法>
変形性膝関節症の手術には、主に関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術の3種類があります。
【関節鏡手術】
半月板や軟骨の傷んだ組織を取り除いて痛みを和らげる手術です。2〜3か所の穴を空けて切開せずに手術できるため短期間の入院で済みますが、膝の変形を改善したり軟骨を再生させたりはできません。
【高位脛骨骨切り術】
すねの骨を切って金属のプレートで固定し、膝の角度を調整して変形を改善する手術です。自分の関節を温存できるため膝の動作の制限がなく、60代程度までの方やスポーツを続けたい方に適しています。手術後しばらくは骨を切った部分の痛みがあり、1ヶ月程度と長期の入院が必要になる場合もあります。
【人工膝関節置換術】
変形した膝を人工関節に置き換える手術です。重症の場合でも適応でき、高齢の方でもリハビリを行える体力があれば問題なく人工膝関節置換術を受けられます。入院期間は3〜4週間程度が目安。手術後は痛みがほとんどなくなりますが、人工膝関節には耐用年数があり、再手術が必要になる場合もあります。
┃3.膝の痛みを手術しないで治せる可能性がある再生医療
手術は症状の改善が期待できる一方で、体への負担が大きく、入院期間も長くなりがちです。できれば手術は避けたいと考える方も多くいらっしゃるでしょう。こうしたニーズに応える新しい選択肢として、近年では再生医療が注目されています。
<再生医療のメリット>
従来、損傷した軟骨を再生させるのは困難とされていましたが、再生医療により修復できる可能性があります。大きな切開や入院を必要としないため、忙しい方でも外来で行える点も特徴です。
変形性膝関節症のほか、半月板損傷や靭帯損傷、軟骨損傷などにも適応可能。保存療法では十分な効果が得られないものの手術は避けたい方や、将来的な手術を回避するために進行を抑えたい方など、さまざまなニーズへの対応が期待できます。
<再生医療の注意点>
効果の現れ方や持続期間には個人差があり、すべての患者さんが同じ結果を得られるわけではありません。痛みの原因となっている疾患によっては適応できない場合もあるため、まずは検査による診断が必要です。変形性膝関節症の場合、適度な運動を行うことで修復力が高まるとされているため、保存療法や生活習慣の改善と組み合わせて再生医療を行うとよいでしょう。
┃4.当院で行う膝の痛みを改善する再生医療
当院では、膝の痛みに対して自由診療で以下の再生医療を行っています。点滴ではなく局所注射で製剤を投与するため、より効率的に患部へ成分を届けられます。
<PRP療法>
PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板や成長因子を多く含むPRP(多血小板血漿)を膝に注射する治療です。血小板や成長因子には、炎症を抑え損傷した組織の修復を助ける働きがあります。PRPをフリーズドライ加工して半年間の保存ができ成長因子の含有量も多い「PFC-FD」にも対応しています。
- 副作用:副作用注射部位の一時的な腫れや痛み、感染など
- 料金:シングル膝(2V)330,000円、ダブル膝(4V)550,000円(税込)
<幹細胞治療>
幹細胞治療は、患者さんの脂肪を採取して幹細胞を培養し、膝に注射する治療です。幹細胞にはさまざまな働きを持つ細胞に分化する力があり、患部に注入することで軟骨などの組織の修復が期待できます。
- 副作用:脂肪採取部位・注射部位の腫れや痛み、感染
- 料金:片側1部位:1部位(片側)1,650,000円、2部位(両側)2,200,000円(税込)
┃5. まとめ
膝の痛みには、変形性膝関節症をはじめ多くの原因があります。保存療法や手術に加えて再生医療という新しい選択肢も広がりつつありますので、適切な診断を受けて自分に合った治療法を選びましょう。膝の痛みにお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
┃YouTubeでも医療知識を紹介しています
今回の内容はYouTubeでも田中院長がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。