自閉症スペクトラム障害(ASD)を含む発達障害に対しては、特性に応じた教育的支援や環境の調整で生活しやすさの向上を目指すことが一般的です。現在主流の「支える」アプローチに加え、近年では再生医療や腸内フローラ治療、TMS治療といった方法で抑うつ症状や気分の改善を図る選択肢も登場しました。この記事では、自閉症スペクトラム障害の一般的な治療法に加えて、再生医療、腸内フローラ治療、TMS治療の内容について解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.自閉症スペクトラム障害はどうして起こる?
2.自閉症スペクトラム障害に対する一般的な治療法
3.自閉症スペクトラム障害の再生医療、腸内フローラ治療、TMS治療はどう違う?
4.当院の自閉症スペクトラム障害・発達障害に対する再生医療
5.まとめ
┃1.自閉症スペクトラム障害はどうして起こる?
自閉症スペクトラム障害のはっきりとした原因は解明されていませんが、生まれつきの脳の異常が影響していると考えられています。子育てやしつけの方法が原因で発達障害が起こるわけではありません。特性のすべてが一生続くわけではなく、成長とともに少しずつ課題が解消される場合もあります。
┃2. 自閉症スペクトラム障害に対する一般的な治療法
現在、自閉症スペクトラム障害は治療が必要な病気というよりも、福祉や医療を活用しながら支えていく個人の特性と考えられています。気分の落ち込みや不眠といった二次的な症状に対しては薬を使うこともありますが、基本的には教育的支援(療育)や生活環境の調整が支援の中心です。たとえ同じ診断名であっても性格や特性は一人ひとり異なるため、個人に合わせたケアや支援を行う必要があります。
┃3. 自閉症スペクトラム障害の再生医療、腸内フローラ治療、TMS治療はどう違う?
近年では、自閉症スペクトラム障害に対し、特性による生活しにくさや二次的な症状を改善する新しいアプローチが登場してきています。ここでは、再生医療、腸内フローラ治療、TMS治療の特徴を紹介します。
治療法 | メリット | デメリット | |
---|---|---|---|
再生医療 | 局所注射などで製剤を投与し、神経細胞の自己修復を促進させる | ・脳機能に直接アプローチできる ・患者自身の細胞からつくる製剤なら、拒絶反応のリスクを抑えられる |
新しい治療法なので長期的な影響が十分にわかっていない |
腸内フローラ治療 | 経口または内視鏡で腸内細菌を投与し、気分や行動の変化を促す | 消化器症状の改善も見込める | 新しい治療法なので長期的な影響が十分にわかっていない |
TMS治療 | 磁気で脳を刺激し、抑うつ症状の緩和を目指す | うつ病を合併している場合、保険適用になるケースもある | ・軽症のうつ病には推奨されていない ・18歳未満には推奨されていない |
<再生医療>
自閉症スペクトラム障害には、ニューロンの発達やシナプス形成など脳の発達異常が関わっていると考えられています。そこで再生医療によって脳内の神経細胞の自己修復を促すことで、脳機能の改善が期待できるのです。
また、自閉症スペクトラム障害などの発達障害がある人は、脳内に異常な炎症反応があることもわかっています。再生医療ではこの炎症を抑えたり、新しい血管をつくりだして血流をよくしたりする効果も見込めます。
ただし新しい治療法なので、体への長期的な影響が十分にわかっていない点には注意が必要です。
<腸内フローラ治療>
腸内フローラ治療は、特性や病気がない人の腸内フローラ(腸内細菌叢)を経口または内視鏡で投与する治療法です。
自閉症スペクトラム障害には便秘や腹痛などの消化器症状が合併することが多く、腸内環境と脳機能の関連性が指摘されています。腸内環境の改善によって、自閉症スペクトラム障害の人の気分や行動が変化したというデータもあります。
ただし再生医療と同様に新しい治療法なので、長期的な影響のデータはまだ十分ではありません。
<TMS治療>
TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)は、頭にコイルを当てて磁気で脳を刺激する治療法です。特性によって二次的に生じる抑うつ症状を改善する効果が認められており、うつ病に対しては一定の条件下で保険が適用されます。
ただし、うつ病が中等症未満で自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動症(ADHD)が病態の中心である場合や、中等症以上のうつ病でも患者が18歳未満の場合など、TMS治療が推奨されないケースもあります。
┃4. 当院の自閉症スペクトラム障害・発達障害に対する再生医療
当院では、自閉症スペクトラム障害をはじめとする発達障害に対し、自由診療で幹細胞上清液(サイトカインカクテル)療法を行っています。
幹細胞上清液とは、幹細胞を培養したときに生じる上澄み液です。成長因子や神経保護因子、血管新生因子などのサイトカインが豊富に含まれており、神経の修復や炎症の抑制を促す効果が期待できます。
ただし、注入部位の一時的な痛みや内出血、アレルギーなどのリスクもあります。
メニュー | 料金 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
① サイトカインカクテル(幹細胞上清液)局所注射
回数 | 料金 |
---|---|
1回 | 165,000円(税込み) |
4回 | 550,000円(税込み) |
②点鼻によるサイトカインカクテル療法(歯髄由来幹細胞上清液)
1クール:1回(2週間分) 88,000円(税込み)
2週間間隔で4回行い、評価をします
>>幹細胞上清液療法(サイトカインカクテル療法)について、詳しくはこちら
┃5. まとめ
自閉症スペクトラム障害や発達障害に対しては、一人ひとりの特性に応じた支援が必要です。再生医療などの新しい治療法も登場していますので、症状や生活上の困りごとについてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
【参考資料・論文】
[総説]うつ病・自閉症と腸内細菌叢. 功刀 浩.腸内細菌学雑誌. 2018
腸内細菌と自閉症スペクトラム障害. 黒川駿哉, 岸本泰士郎, 真田 健史, 三村 將.日本生物学的精神医学会誌. 2019
日本精神神経学会 反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針 令和 6 年 4 月(改訂)ver2