誰もが発症する可能性を持つ「認知症」。日本では約600万人の患者がいると報告されており、65歳以上になると約6人に1人が認知症を発症しているとされています。その中でも多いのが「アルツハイマー型認知症」です。脳の萎縮によって起こる進行型の病気で、認知症患者の6割以上は原因がアルツハイマー病。また若い世代でも発症する場合があります。今回はこのアルツハイマー型認知症について、原因や初期症状、治療方法についてご紹介します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.アルツハイマー型認知症とは
2.アルツハイマー型認知症の初期症状
3.アルツハイマー型認知症の治療方法
4.アルツハイマー型認知症に対する再生医療
5.当院の幹細胞治療・サイトカインカクテル療法の流れ
6.費用について
7.幹細胞治療のメリットとデメリット
8.まとめ
┃1.アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症とは、認知症の中でも一番多い疾患で、アルツハイマー病が原因で起こった認知症を指します。
<認知症の原因となる病気>
- アルツハイマー病
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症 など
アルツハイマー病は、記憶や思考、行動に異常を起こす脳の病気。脳にアミロイドβという特殊なタンパク質が何かしらの原因で溜まってしまい、それが脳の神経細胞を破壊することで発症します。破壊に伴い、脳は次第に萎縮するので、発症後は時間の経過とともに物忘れや記憶力の低下、判断力の低下が起こります。
老化現象や精神疾患とは異なり、脳の萎縮が原因であるため、早めの対策を行えば進行を遅らせることができます。
┃2.アルツハイマー型認知症の初期症状
初期症状として多く見られるのが物忘れです。最近の出来事を忘れてしまっていたり、同じ話を繰り返したりすることが多くなっていきます。時間がわからなくなる、判断力が落ちるという場合もあります。
アルツハイマー型認知症が進行すると、記憶は近い時期から徐々に消失。さらに症状が進むと徘徊や失禁、性格の変化が現れ、最終的には介護が必要になってしまうのです。
初期症状の段階では、相手やその日の体調によって症状の出現に波があるので、本人や家族なども「年のせいかな?」「疲れているのかもしれない」と納得させてしまうケースがほとんど。受診に至らない場合が多く見られます。
アルツハイマー型認知症は早ければ早いほどいいとされています。セルフチェックの項目を用意したので、心当たりのある人は早めに受診をしましょう。
<セルフチェック項目>
- 物や人の名前がすぐに出てこない
- 同じことを何度も言っていると指摘されたことがある
- 仕事や家事の段取りをうまく組めなくなった
- 自分のいる場所がわからなくなる
- 性格が変わった
- 何事にも無関心になった
- 日にちや曜日、時間がわからなくなることがよくある
┃3.アルツハイマー型認知症の治療方法
アルツハイマー病を完治させる方法は現在はまだ確立されておらず、対症療法を行います。ただし、早期発見をして適切な治療を受ければ、脳の萎縮を防ぎ、認知症を悪化させることを食い止めることができます。
<薬物療法>
記憶や認知機能の低下を遅らせる効果のある薬を使用して、症状を食い止めます。
薬の種類 | 詳細 |
---|---|
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 | ネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなどを用いた薬。アセチルコリンの分解を抑制し、認知機能の改善が期待できます |
NMDA受容体拮抗薬 | メマンチンを用いた薬。グルタミン酸の過剰な働きを抑え、認知機能の低下を抑制します |
<非薬物療法>
認知症の進行を遅らせるために、脳を活性化させるためのリハビリテーションなどを行います。
認知機能リハビリテーション | 音楽療法や園芸療法、回想法など脳を活性化させる活動を取り入れます。認知機能の維持、改善を目指します |
---|---|
生活リハビリテーション | 日常生活での活動を積極的に行うことで、心身機能の維持を図ります |
環境の整備 | 転倒防止など、生活環境を整えます |
┃4.アルツハイマー型認知症に対する再生医療
アルツハイマー病に対する再生医療の研究も進められています。主に神経細胞の再生や認知機能の改善を目指したもので、特に幹細胞治療やサイトカインカクテル療法が注目されています。
<幹細胞治療・サイトカインカクテル療法とは>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。「幹細胞治療」では、培養した細胞そのものを患部に注入します。
また、培養した際に生じる培養上清液には、幹細胞から放出されるサイトカイン(成長因子、神経保護因子、血管新生因子など)が多数含まれているため、これを治療に使用することもあります。それを「サイトカインカクテル療法」と呼びます。
┃5.当院の幹細胞治療・サイトカインカクテル療法の流れ
当院では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する治療を行っています。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。
<①カウンセリング>
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
<②検査>
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
<③脂肪採取>
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです
<④幹細胞の培養>
脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。
<⑤幹細胞の静脈内投与、局所投与>
培養した幹細胞を点滴、局所に投与します。
<⑥経過観察>
その後の効果について定期的に経過観察を行います。
┃6.費用について
再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです(すべて税込)。
項目 | 価格 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
幹細胞培養上清神経修復治療 | 1か所44万円 |
幹細胞培養上清髄腔内投与 | 1回 55万円 |
脂肪由来幹細胞点滴投与 | 1回165万円 |
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 | 1回198万円 |
┃7.幹細胞治療のメリットとデメリット
再生医療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
- 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
- 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
- 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃8.まとめ
アルツハイマー型認知症は誰にでも起こりうる病気です。割合としては高齢者に多く見られる現象ですが、若くして発症する人も少なくありません。まずは初期症状を見逃さないこと、そして発症を確認したら早めに対策をすることが大切です。もしも何か気になることがあればお気軽にご相談ください。
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