「抜け毛が増えてきた」「分け目が広がってきた気がする」――このような薄毛の悩みは年齢や性別を問わず、多くの方が抱えています。実際、日本国内では1,800万人以上が脱毛に悩んでいるとも言われています。これまでの薄毛治療といえば、ミノキシジルやフィナステリドといった薬物療法や植毛手術が中心でした。しかし、薬による副作用や限界、植毛の心理的・費用的ハードルを感じる方も少なくありません。そこで注目されているのが、自己再生力を活かす「PRP療法(多血小板血漿療法)」です。この記事では、PRP療法の仕組みから効果、安全性、他治療との比較まで、科学的根拠をもとに詳しく解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.薄毛に関する基礎知識
2.髪の生える仕組みと毛周期
3.PRPが薄毛に有効な理由
4.PRP療法のメリットとデメリット
5.他の薄毛治療との比較
6.表参道総合医療クリニックでのPRP治療の流れ
7.よくある質問(FAQ)
8.まとめ
┃1.薄毛に関する基礎知識
薄毛(脱毛症)は、不要な生理現象ではなく、性別や年齢を超えたよくある疾患です。
<主な原因>
- AGA / FAGA :ホルモン(特にDHT)の影響で毛周期が乱れ、成長期が短くなってしまいます
- 遺伝的要因 :特にAGAは家系との関連が強いとされます
- 加齢 :毛母細胞の活性が低下し、髪の再生力が衰えていきます
- ストレス・生活習慣の乱れ:血行不良やホルモンバランスの異常が毛包機能を下げるとされています
これらが複合的に関与することで、毛が細く短くなり、やがて毛包が縮小し発毛機能を失います。
┃2.髪の生える仕組みと毛周期
そもそも髪の毛がどのようなメカニズムで生えてきているかご存じでしょうか? 髪の毛は「毛包(もうほう)」という皮膚の奥深くにある袋状の構造から生まれます。毛包の底には「毛乳頭(もうにゅうとう)」という小さな組織があり、ここに毛細血管が集中しています。この毛乳頭が毛母細胞に栄養や酸素を供給することで、髪の毛が成長するのです。
この成長には「毛周期(ヘアサイクル)」というリズムがあり、髪の毛は常に生え替わりながら健康を保っています。毛周期は主に3つの段階に分けられます。
ステージ | 詳細 |
---|---|
成長期(約2〜6年) | この期間は毛母細胞が活発に細胞分裂を繰り返し、髪が太く長く成長していきます。私たちの頭髪のうち、約85〜90%はこの成長期にあります。 |
退行期(約2〜3週間) | 毛母細胞の活動が徐々に停止し、髪の成長が止まる段階です。毛包が縮み始め、毛髪が自然に押し出される準備に入ります。 |
休止期(約3〜4ヶ月) | 髪の成長は完全に止まり、抜け落ちるのを待つ段階。頭髪の約10%がこの状態にあり、1日あたり50〜100本程度は自然に抜けるとされています。 |
薄毛になると、この毛周期に異常が生じます。特に「成長期」が極端に短くなり、髪の毛が太く長く育つ前に抜けてしまうため、全体として髪の密度やボリュームが低下してしまうのです。さらに、毛包自体が徐々に縮小・萎縮し、最終的には髪を生み出す力を失う場合もあります。このため、治療のタイミングは非常に重要であり、毛包がまだ完全に消失していない早期段階での介入が大きなカギとなります。
<男女で異なるPRPの効果傾向>
PRP療法は、男女問わず薄毛の改善に効果があるとされていますが、脱毛の原因や進行パターンが異なるため、反応の出方にも若干の傾向があります。
【男性(AGA)の場合】
ホルモン(DHT)の影響により、前頭部〜頭頂部にかけて徐々に薄毛が進行します。臨床研究によれば、男性ではPRP治療により「毛髪密度が12〜45%増加」「毛髪径が平均27%以上増加」といった結果が報告されています(参考:Journal of Cosmetic Dermatology, 2018)。
【女性(FAGA)の場合】
全体的にボリュームが減少するびまん性脱毛が多く見られます。男性ほどDHTの影響は受けませんが、加齢やホルモン変動、ストレスなどが原因です。女性のPRP効果も十分に認められており、特に発症から5年以内であれば、毛周期の改善により髪のボリュームが回復しやすいとされています(参考:Int. J. Trichology, 2019)。
┃3.PRPが薄毛に有効な理由
PRP(Platelet-Rich Plasma)は、自己血液を遠心分離して血小板を高濃度に抽出した再生医療素材です。
<PRP療法について>
血小板の濃度が高い「PRP(多血小板血漿)」を身体の傷んでいる部位に注入し、修復を促す治療です。PRPは、患者様から採取した血液を遠心分離機にかけて生成します。自分の血液を使用するため、アレルギーや拒絶反応が起こるリスクが低いことが特徴です。椎間板のほか、靭帯や関節の損傷、肉離れなど、幅広い領域で使用されています。治療後には一時的に痛みが出るほか、効果の現れ方には個人差があります。
<PRPの効能とメカニズム>
- 毛母細胞の活性化:PRPに含まれる成長因子(PDGF、VEGF、EGF、FGF、IGF-1など)が毛包内の細胞を刺激し、分裂を促進
- 血流促進:VEGFなどが血管新生を促し、毛根への栄養供給を改善
- 炎症の抑制:頭皮の慢性的な炎症を軽減し、毛包環境を整える
- 毛周期の正常化:成長期への移行を促進し、太く健康な毛が育ちやすくなる
- 安全性が高い:自己由来の成分のため、拒絶反応や感染リスクが極めて低い
┃4.PRP療法のメリットとデメリット
<メリット>
- 自身の血液を使用するので、拒絶反応や感染リスクが極めて低いとされています
- 外用薬や内服薬に頼らず、体本来の再生能力を活用するので、自然な効果を得られます
- AGA、FAGAのどちらにも対応可能です
- 微細針で注入するので、均一なPRP分布を望むことができるほか、創傷治癒反応も促進します。
<デメリット>
- 自身の再生能力を活用するため、効果には個人差が生まれます
- 自費治療なので、全額負担する必要があります
┃5.他の薄毛治療との比較
治療法 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
PRP療法 | 自己再生力を活用し自然な発毛を促進します | 効果に個人差あり、複数回の施術が必要です |
ミノキシジル(外用薬) | 血行促進作用で毛包を刺激します | 継続使用が必須/発疹、かゆみといった副作用があります |
フィナステリド(内服薬) | DHTの生成を抑えAGAの進行を防ぎます | 性機能低下や肝機能への影響リスクがあります |
自毛植毛 | 毛髪密度を即効的に増やすことができます | 高額治療になるほか、手術リスク、定着率に個人差があります |
┃6.表参道総合医療クリニックでのPRP治療の流れ
①医師による頭皮評価(マイクロスコープ使用)
②採血(20〜40ml)
③遠心分離によりPRPを抽出(3〜8ml)
④頭皮に極細針で注入(またはマイクロニードリング併用)
⑤術後ケア(洗髪や運動制限の説明)
<治療頻度の目安>
初期治療:3〜4週間ごとに3〜4回
維持治療:3〜6ヶ月ごとに1回
┃7.よくある質問(FAQ)
Q:治療は痛いですか?
A:局所麻酔を使用するため、痛みは最小限です。針も極細で出血はほとんどありません。
Q:効果はどれくらいで出ますか?
A:2〜3ヶ月後から変化を感じる方が多く、6ヶ月程度で明確な改善が見られます。
Q:副作用はありますか?
A:軽度の腫れ・赤み・内出血が出る場合もありますが、ほとんどが1〜2日で自然に改善します。
┃8.まとめ
PRP療法は、自己血液を使って毛包の再生力を引き出す、非常に安全で自然な薄毛治療法です。性別を問わずAGA・FAGAの改善に対応でき、副作用もほとんどないことから、薬が合わなかった方や植毛に抵抗がある方にとっても有効な選択肢です。毛包がまだ機能を残している早期の段階での治療開始が、最も高い効果を生み出す鍵となります。
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