椎間板ヘルニアと診断されたものの、「このまま様子を見ていてもよいのか」「手術になるかどうかの判断基準は何か」と不安な方もいるでしょう。一般的には、椎間板ヘルニアで早急な手術が必要になることはまれです。ただし、重症度や日常生活への影響度によっては、早めに手術を検討する場合もあります。そこでこの記事では、椎間板ヘルニアの治療法の種類や手術になるかどうかの判断基準を解説します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。開院後、多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.椎間板ヘルニアはどのような病気?
2.椎間板ヘルニアの治療法にはどんな種類がある?
3.椎間板ヘルニアで手術が必要か判断する基準
4.自分に合った治療法を選ぶには検査・診断が重要
5.治療後は再発防止のため適切なセルフケアを
6.当院の日帰り椎間板ヘルニア手術
7.まとめ
┃1.椎間板ヘルニアはどのような病気?
腰痛や下肢の痛み・しびれの原因は、筋肉だけではありません。中には、背骨の異常が原因で痛みやしびれが起きている場合もあります。腰痛・下肢痛を引き起こす背骨の異常の中でも、椎間板ヘルニアは頻度の高い病気です。椎間板ヘルニアでは、背骨と背骨の間にある椎間板が変性して飛び出し、神経を圧迫することで腰痛や下肢の痛み・しびれが生じます。
<椎間板の構造>
椎間板は背骨を構成する骨(椎骨)の間に挟まれており、背骨にかかる衝撃を吸収する役割や、スムーズに動かす役割を担っています。椎間板の内部にあるゼリー状の組織が「髄核」、それを取り囲む組織が「線維輪」です。
<椎間板ヘルニアの原因>
髄核は本来みずみずしく弾力がありますが、年齢とともに水分が減少し、弾力が失われていきます。その結果、椎間板が潰れてきて神経を圧迫し、椎間板ヘルニアを発症します。背骨の中でも、腰の部分に当たる腰椎は特にヘルニアが起こりやすい部位です。加齢に伴う長期間の負荷が主な原因ですが、若くても腰に負担がかかるスポーツや仕事をしている場合、発症しやすくなります。
<腰椎椎間板ヘルニアの代表的な症状>
腰椎椎間板ヘルニアの典型的な症状は、腰の痛みやお尻・下肢の痛みとしびれです。突然強い腰痛が起こることもあります。咳・くしゃみをしたときや、前かがみになったときに症状が強くなるのも特徴的です。さらに進行すると、足の脱力感や排尿トラブルなどの神経症状が現れます。
<腰に負担をかけやすい動作・姿勢の例>
以下のような動作や姿勢は腰に負担をかけやすいため、できる限り避けるようにしましょう。
【重い荷物を床から持ち上げる】
前かがみの姿勢は椎間板に圧力が集中しやすく、特に前かがみでものを持ち上げると痛めやすくなります。
【長時間同じ姿勢を続ける】
長時間姿勢を変えずにいると、同じ筋肉に負担がかかり続けます。特に座位(座っている姿勢)は腰椎への負荷が大きく、デスクワークの人は注意が必要です。
【姿勢が偏っている】
片方の肩にいつもバッグをかける、片足に重心をかける、猫背になっているなど、偏った姿勢が癖になっていると椎間板ヘルニアのリスクが上がります。
【瞬間的に強い力がかかる動き】
スポーツでのジャンプや急なひねり動作など、瞬発的な動作は腰椎に負担をかけます。
┃2.椎間板ヘルニアの治療法にはどんな種類がある?
従来から行われている椎間板ヘルニアの治療法は、主に保存療法と手術です。
<保存療法>
椎間板ヘルニアは、体内で吸収されて自然に症状がおさまることもあります。ヘルニアの吸収には一般的に3ヶ月程度かかるため、多くの場合、まずは手術ではなく保存療法で様子を見ます。
【薬物療法】
鎮痛薬、筋弛緩薬、抗うつ薬などで炎症と痛みを和らげます。
【理学療法】
ストレッチや筋力強化などのリハビリによって関節の動かしにくさを緩和し、椎間板への負担を減らす身体づくりを目指します。
【神経ブロック注射】
痛みの強い部位に局所麻酔やステロイドを注入し、痛みと炎症を抑えます。
<手術>
保存療法で改善しない場合、飛び出している椎間板や髄核を摘出する手術を行います。近年では1mm程度の傷ですむレーザー治療や、再生医療を組み合わせた日帰り内視鏡手術も登場し、選択肢が広がってきています。内視鏡手術は重症例にも適応可能ですが、周りの神経や血管を傷つけずに手術を行うには技術と経験が必要なので、実績や資格を確認した上で手術を受ける施設を選ぶとよいでしょう。
┃3.椎間板ヘルニアで手術が必要か判断する基準
椎間板ヘルニアの手術を検討するのは、主に一定期間保存療法を行っても症状が改善しない場合です。ただし、症状の強さや生活への影響度によっては、早期に手術を行うことをおすすめする場合もあります。
<早期の手術を検討するケースの例>
【強い痛みやしびれ、歩行障害、排尿トラブルがある】
このような神経症状が進行している場合や筋力の低下がある場合、早めの対応が重要です。
【症状によって日常生活や仕事に影響が出ている】
日常生活への影響を軽減するために、早めのタイミングで手術を選ぶこともあります。
【検査の結果圧迫が強いと判断された】
MRI検査で神経の強い圧迫が確認された場合など、画像検査の所見から早めの手術を検討することもあります。
┃4.自分に合った治療法を選ぶには検査・診断が重要
治療方針は、症状の重症度や日常生活への影響度、画像検査の所見など、複数の要素を総合的に評価して決定する必要があります。腰椎にどのような異常が起こっているのか、どの程度重症なのかを見極め、適切な治療法を選ぶためにも精密な検査と診断が重要です。
椎間板ヘルニアが疑われる場合、椎間板や神経などの軟部組織を撮影できるMRI検査を行うことが一般的です。一方、骨や関節の異常が疑われる場合はレントゲンやCT検査が併用されることもあります。
近年では手術の選択肢が広がっており、従来の摘出術に加えて日帰り可能なPLDDや内視鏡手術なども選べるようになってきました。症状の程度や生活スタイル、検査結果を踏まえて専門知識を持った医師と相談し、自分に合った治療法を選択しましょう。
┃5.治療後は再発防止のため適切なセルフケアを
治療により椎間板ヘルニアの症状がおさまっても、生活習慣を見直さなければ再発するリスクがあります。治療後も、普段から腰への負担を軽減する生活習慣を心がけましょう。セルフケアの方法としては、以下のようなものがあります。
【正しい姿勢を意識する】
普段から、腰への負担を減らす姿勢を意識しましょう。長時間座るときは最低1時間に1回は席を立ち、軽く歩いたりストレッチをしたりして腰の血流を促すと効果的です。立っているときも両足に均等に体重をかけ、左右どちらかに重心が偏らないようにしましょう。猫背にならないよう、背筋を伸ばすことも重要です。
【適度な運動をする】
有酸素運動をすると、血行がよくなるため腰痛予防につながります。ウォーキングや水中歩行は腰への衝撃が少ないため、特におすすめの運動です。さらに、筋肉をつけると腰や関節の安定性が増し、再発の予防につながります。ただし、無理なトレーニングはかえって腰を傷める原因になりかねません。運動を始める前に医師や理学療法士の指導を受け、自分に合った運動を取り入れましょう。
【食生活や喫煙習慣を見直す】
体重が増えるほど腰椎への負担が大きくなり、椎間板が潰れやすくなります。適正体重を維持するため、日頃から食事の量と栄養バランスに注意しましょう。また、たばこに含まれるニコチンには血管を収縮させる作用があるため、腰部の血行が悪化します。喫煙習慣がある場合は、禁煙も重要な予防策の一つです。
┃6.当院の日帰り椎間板ヘルニア手術
当院では、椎間板ヘルニアに対する日帰り手術としてレーザー治療(PLDD)と内視鏡手術(PED)を行っています。さらに、損傷した椎間板の修復を促す経皮的椎間板再生治療(PDR)も行っており、レーザー治療と組み合わせることも可能です。椎間板は血流が乏しいため、変性しても自然に治ることはほとんどありません。しかし再生医療を活用すれば傷ついた椎間板を修復し、痛みや炎症を抑える効果が期待できます。
<経皮的レーザー椎間板減圧術(PLDD)>
レーザーを椎間板内の髄核に照射して縮小させ、神経の圧迫を軽減する治療法です。施術に要する時間は一箇所あたり15〜30分程度と短時間なので、日帰りが可能。1mm程度の穴から治療できるため、術後の出血や痛みが抑えられることも特徴です。
<経皮的内視鏡下椎間板摘出術(PED)>
内視鏡を使用して椎間板を摘出する手術です。切開幅は約7mmと、細い内視鏡を使って行うため患者様の身体への負担を抑えられるのが特徴。レーザー治療では対応が難しい重症例にも効果が期待できます。手術時間は1〜2時間程度で、日帰りが可能です。
<経皮的椎間板再生治療(PDR)>
損傷した椎間板の再生を促す治療方法です。患者様の血液から濃縮血小板由来の成長因子を抽出し、幹細胞上清液とともに損傷した椎間板に投与。組織を修復する働きを持つ成分が、椎間板を再生します。PLDDと併用することも可能です。
┃7.まとめ
椎間板ヘルニアの手術を検討するのは、保存療法で十分な効果が得られない場合や、症状が重い場合などです。近年ではレーザー治療や内視鏡手術など、身体への負担が少なく日帰りで受けられる選択肢も広がってきているため、症状や生活スタイルに応じて適切な治療法を選択しましょう。当院では、椎間板ヘルニアに対するレーザー治療や内視鏡手術、椎間板再生医療に対応。患者様の症状や生活スタイルに合わせた治療法をご提案しますので、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考文献】
・腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021(改訂第3版)