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2025.06.04

低酸素虚血性脳症と闘うご家族に知ってほしい幹細胞治療がもたらす“再生”という選択肢

「泣き声がなかなか出なかった」「産声が弱かった」「出産後すぐにNICUに運ばれた」など、出生時のわずかなトラブルは、大きな不安につながります。低酸素虚血性脳症は、出生時または直後に脳へ十分な酸素や血液が送られなかったことにより、脳細胞が損傷を受ける病態です。医師から「障害が残る可能性があります」と告げられ、「この子にできることはもう増えないのかもしれない」と思ってしまった方もいるかもしれません。でも、医学は少しずつ前に進んでいます。脳細胞の再生でも注目を集めているのが「再生医療」という方法です。ここでは低酸素虚血性脳症についてと、再生医療の中でも幹細胞を使った治療方法や研究結果についてご紹介します。

<コラム監修者>

田中聡院長

田中聡(たなか さとし)

表参道総合医療クリニック院長


大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。日本脳神経外科学会認定 日本脳神経外科専門医として、現在は多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。

┃1.低酸素虚血性脳症とは?

低酸素虚血性脳症(Hypoxic ischemic encephalopathy:HIE)は、新生児で仮死状態に陥った子供が、脳への酸素供給量が不足してしまい、血液供給が滞り、脳にダメージを負った状態を指します。原因は分娩中に、へその緒が胎児の首などに巻きついてしまったり、羊水を吸引したり、仮死状態に陥ったりという、分娩中のトラブル。主に新生児期に発症するケースが多いとされています。

<新生児期ごとの主な原因>

【出生前】

胎内での酸素供給障害が起きることで、脳にダメージを負ってしまいます。胎内で酸素不足になる原因としては、臍帯脈絡によって血流が阻害されるほか、胎盤が子宮壁から早期に剥離したり、臍帯が圧迫されたりすることで起こります。また母体が高血圧や糖尿病の場合も、胎児への酸素供給に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。

【出産中】

分娩中の酸素供給障害は、妊娠高血圧症候群や貧血など母体の健康状態、胎児発育不全や双胎間輸血症候群に加え、へその緒が体に絡まる臍帯巻絡や、破水後に胎児よりも先に臍帯が子宮口もしくは子宮外に出てしまう臍帯脱出など胎児の状態、過強陣痛や子宮破裂、常位胎盤早期剝離などいった陣痛中の状況など、様々な要素が絡み合って起こります。

【出生直後】

主に早産の場合に多く見られます。赤ちゃんの肺が十分に発達していないことで、肺が正常に機能せず、酸素不足になってしまいます。肺の発達が不十分で肺胞の表面張力を減らして膨らみやすくする科学物質「肺サーファクタント」が不足して起こる「新生児呼吸窮迫症候群」、出生後も肺血管抵抗が高い状態が続いて肺の血流が不足する「新生児遷延性肺高血圧症」などの症状で脳にダメージが残ります。

┃2.低酸素虚血性脳症の症状について

低酸素虚血性脳症の症状は、脳の損傷部位や重症度により様々です。軽症の場合は一時的に呼吸が止まったり、ぐったりした状態が数分続く程度ですが、完全に回復することが多いです。しかも中等症以上になると、意識障害や痙攣が見られ、場合によっては後遺症が残ることがあります。重症になると脳の損傷が深刻となり、死に至ることもあります。

<発生時の症状について>

  • 刺激しても動かない
  • ぐったりしている
  • 力が入りにくい
  • 呼吸がうまくできていない
  • 痙攣
  • 産声を挙げない
  • 皮膚の色が悪い

<後遺症について>

【脳性麻痺】

主に低酸素虚血性脳症の後遺症として発覚します。主に四肢の麻痺などが挙げられます。このほか、座ったときのバランスがうまく取れないこともあります。

【発達遅滞】

損傷を受けている部位によっては、寝返りや、歩行などの運動機能や言語、認知機能の発達が遅れることがあります。

【てんかん】

痙攣を繰り返す病気で、脳の損傷によって引き起こされます。

【高次機能障害】

記憶力や注意力の低下や、深く物事が考えられないなどの障害が残ることがあります。

【そのほか】

視力や聴力の障害のほか、呼吸困難になることもあります。

┃3.現在の一般的な治療方法は?

現在、低酸素虚血性脳症の標準治療は、脳細胞の損傷を最小限に留めるため発症から72時間以内に行う「低体温療法」のほか、「抗けいれん薬」の使用、麻痺などが残った箇所に対する「リハビリテーション」、運動機能をサポートする「装具療法」、栄養・嚥下・呼吸などの「支持療法」などが行われています。

しかし、いずれも対症療法です。これまでは「一度壊れた脳細胞は戻らない」とされていたため、根本的に治療することが難しい病気の1つに挙げられていました。しかし、近年の研究により、再生医療によって「壊れた脳細胞の修復・機能回復」の可能性が明らかになってきました。

┃4.幹細胞治療は何をもたらす?

再再生医療の中でも、間葉系幹細胞(MSC)を用いた幹細胞治療は、脳損傷後の回復において次のような働きがあると考えられています。これにより、障害を最小限に食い止めたり、失われた機能の一部を取り戻すことが期待されているのです。

【幹細胞の作用メカニズム】

効果 詳細
炎症の鎮静化 損傷部位の過剰な炎症反応を抑える
神経保護 アポトーシス(細胞死)を減らし、生存細胞を守る
神経再生促進 ニューロンやオリゴデンドロサイトの再生を助ける
血管新生 脳内の血流環境を改善し、回復しやすい状態をつくる

<幹細胞治療・サイトカインカクテル療法とは>

幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。

幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。

患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。「幹細胞治療」では、培養した細胞そのものを患部に注入します。

>>幹細胞治療について

また、培養した際に生じる培養上清液には、幹細胞から放出されるサイトカイン(成長因子、神経保護因子、血管新生因子など)が多数含まれているため、これを治療に使用することもあります。それを「サイトカインカクテル療法」と呼びます。

┃5.実際の研究報告について

2020年代以降、世界各国で新生児HIEや小児脳性麻痺に対する幹細胞治療の臨床研究が進められています。韓国の研究では臍帯由来MSCの髄腔内投与により、HIE児の約6割で神経機能が改善したとの報告がありました。そのほか、世界各国で以下のような成果が報告されています。

<臨床試験の報告の一例>

  • 運動スコア(GMFM)の改善
  • 発語能力・表情反応の向上
  • 自発運動の増加、けいれん頻度の減少
  • 副作用は軽微(発熱・倦怠感など)

┃6.当院の幹細胞治療・サイトカインカクテル療法の流れ

当院では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する再生医療「ASC療法」を行っています。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。

<①カウンセリング>

事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。

<②検査>

感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。

<③脂肪採取・血液採取>

腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。

<④幹細胞の培養>

幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。

<⑤幹細胞投与>

培養した幹細胞を投与します。

<⑥経過観察>

治療後の効果について定期的に経過観察を行います。治療効果を確認しながら、リハビリを併用します。┃5.費用について

再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです(すべて税込)。

項目 価格
医師による診察・カウンセリング 11,000円
感染症検査(採血) 11,000円
幹細胞培養上清神経修復治療 1か所44万円
脂肪由来幹細胞点滴投与 1回165万円

┃6.再生医療のメリットとデメリット

幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。

<メリット>

  • 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
  • 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
  • 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます

<デメリット>

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