関節リウマチと診断されて、「このままずっと痛みと付き合うしかないのかも…」と感じている人はいませんか?関節の痛みで朝起き上がれない、手のこわばりで家事がつらい、階段の昇り降りが苦痛――。関節リウマチは、関節の内側にある滑膜という組織が炎症を起こし、骨や軟骨を破壊していく進行性の疾患です。特に40代~60代の女性に多く、生活の質(QOL)を著しく低下させることから、「目に見えない苦しみを伴う国民病」とも言われています。薬で炎症を抑えても、一度壊れた関節を元に戻す方法はないと考えられていた時代は、今、再生医療の進化によって変わりつつあります。ここでは関節リウマチと再生医療について解説していきます。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。日本脳神経外科学会認定 日本脳神経外科専門医として、現在は多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.関節リウマチとは?
2.関節リウマチの進行度について
3.関節リウマチの治療方法について
4.再生医療とは? 幹細胞で「治す」から「再生させる」時代へ
5.海外の研究でも実績が報告されています
6.当院における治療の流れ
7.費用について
8.再生医療のメリットとデメリット
9.まとめ
┃1.関節リウマチとは?
「関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)」とは、自己免疫疾患の一種。体の免疫システムが本来守るべき自分自身の関節を異物と認識して攻撃してしまい、関節に炎症が起きてしまう病気です。腫れや痛み、こわばりなどの症状が主に手足に現れます。
症状が進行すると関節が動かなくなってしまい、仕事や家事だけでなく、日常的な動作も難しくなってしまいます。
<関節リウマチの主な初期症状>
- 1時間以上続く朝のこわばり
- 指、手首、膝などの関節の腫れと痛み
- 微熱、倦怠感、体重減少 など
┃2.関節リウマチの進行度について
関節リウマチの進行度は関節破壊と機能障害の2つの観点から進行度を評価。それぞれの観点ともにステージは4つに分けられています。
<関節破壊の進行度>
X線検査で関節の状態がどのようになっているか確認します。
ステージ | 程度 | 状態 |
---|---|---|
ステージⅠ | 初期 | X線検査で骨や軟骨の破壊は見られませんが、関節法の内側を覆う薄い膜状の「滑膜(かつまく)」という組織が炎症を起こして増殖してしまっている状態です。 |
ステージⅡ | 中等期 | 軟骨破壊が見られ、骨と骨の間が狭くなってしまっている状態です。ただし、まだ骨の破壊はありません。 |
ステージⅢ | 高度進行期 | 骨や軟骨に破壊が生じた状態です。 |
ステージⅣ | 末期 | 関節が破壊されしまい、動かなくなった状態です。強直、固定されてしまっています。 |
<機能障害の進行度>
関節破壊の進行に伴い、日常生活にも支障をきたします。そのため機能障害の進行度に応じて、4段階のクラス分けを行います。
クラス | 程度 | 状態 |
---|---|---|
クラスⅠ | ほぼ正常 | 健常者とほとんど変わらずに生活や仕事ができる状態です。 |
クラスⅡ | 軽度障害 | 多少の障害はありますが、普通の生活ができる状態です。ただし、仕事以外の活動に支障をきたす場合があります。 |
クラスⅢ | 制限 | 日常生活の身の回りのことは何とかできますが、外出時などには介助を必要とする状態です。仕事なども場合によっては制限されてしまいます。 |
クラスⅣ | 不能 | 通常の身の回りの動作を含めた、全ての行動が制限されてしまう状態です。 |
┃3.関節リウマチの治療方法について
近年は早期診断・早期治療が進んでいます。また「メトトレキサート(MTX)」や「生物学的製剤(バイオ薬)」などの登場で、多くの患者が症状を抑えられるようになりました。しかし、患者の状況によっては薬をつかえないことも少なくありません。
<関節リウマチの薬がつかえない人>
- 薬の副作用が強く出てしまう
- 複数の薬を試しても効果が不十分
- 妊娠希望などで薬が使えない
- 関節の破壊がすでに進んでいる
そこで注目されているのが、体の中から「修復する力」を引き出す再生医療です。再生医療であれば先ほど薬がつかえないとした方々でも、治療が望めるかもしれません。
┃4.再生医療とは? 幹細胞で「治す」から「再生させる」時代へ
幹細胞治療は、患者様自身の細胞(主に脂肪組織など)から取り出した「幹細胞」を体に戻すことで、壊れた組織を修復・再生する医療技術です。再生医療のポイントは2つあります。
<ポイント① 炎症を鎮める(免疫調整作用)>
関節リウマチでは、過剰な免疫反応が関節内の炎症を引き起こしています。幹細胞はサイトカインのバランスを調整し、免疫の暴走を抑える作用があります。特に「IL-6」や「TNF-α」といった炎症性サイトカインを抑制することで、腫れや痛みを軽減する効果が期待できます。
<ポイント② 壊れた組織の修復・再生(再生誘導作用)>
幹細胞は必要に応じて軟骨や血管、滑膜細胞に分化し、炎症で傷ついた組織の再構築を助ける働きがあります。そのため、これまで再生が難しいとされていた軟骨や滑膜を修復できる可能性が高まったので、単なる対症療法ではなく、根本からの改善を目指すことが可能になりました。
<幹細胞治療について>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。「幹細胞治療」では、培養した細胞そのものを患部に注入します。
<PRP療法について>
幹細胞を使った治療の他に、「PRP療法」も効果的です。PRP療法とは患者から採取した血液の血小板の濃度を高めて「PRP(多血小板血漿)」をつくり、これを患者様自身の身体の傷んでいる部位に注入することで、その修復を促す治療法。歯科や形成外科、整形外科など、幅広い領域で行われています。
┃5.海外の研究でも実績が報告されています
幹細胞治療において、中国で行われた臨床研究(Park et al., 2022)では幹細胞を静脈投与した関節リウマチ患者に以下の変化がみられました。
<関節リウマチ×幹細胞治療における報告の一例>
- 疼痛スコアの大幅な改善
- DAS28(関節リウマチの活動性スコア)の有意な低下
- 抗炎症性サイトカインの上昇と炎症マーカーの減少
また、副作用の頻度も低く、安全性が高いことも示されています。
- 薬で十分に症状が抑えられない方
- 妊娠希望などで薬剤の使用が制限される方
- 手術を避けたい、または適応が難しい方
- 痛みだけでなく関節機能の改善を目指したい方
┃6.当院の幹細胞治療の流れ
当院の幹細胞治療では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する再生医療「ASC療法」を行っています。幹細胞治療・PRP療法を行う際は、主に下記の流れで治療を進めていきます。
<①カウンセリング>
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
<②検査>
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
<③脂肪採取・血液採取>
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
<④幹細胞の培養・PRPの抽出>
幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。PRP療法の場合、採血を行い、その後遠心分離機にかけて、PRP(多血小板結晶)を抽出します。
<⑤幹細胞・PRPの局所もしくは点滴投与>
培養した幹細胞や抽出したPRPを投与します。投与方法は、関節リウマチが起きている箇所に直接作用するよう注射で投与する「局所投与」か、血液から作用させる「点滴投与」の2種類。ただし、直接作用したほうがより効果が期待できるため、局所投与を推奨しています。
<⑥経過観察>
治療後の効果について定期的に経過観察を行います。治療効果を確認しながら、リハビリを併用します。
┃7.費用について
再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです(すべて税込)。
項目 | 価格 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
PRP神経修復治療 | 1か所55万円 |
幹細胞培養上清神経修復治療 | 1か所44万円 |
幹細胞培養上清髄腔内投与 | 1回 55万円 |
脂肪由来幹細胞点滴投与 | 1回165万円 |
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 | 1回198万円 |
┃8.幹細胞治療のメリットとデメリット
幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
- 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
- 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
- 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃9.再生医療のメリットとデメリット
関節リウマチは進行性の病気ですが、幹細胞治療によって“関節を再生する”道筋が見え始めています。これまで「対処するしかなかった」関節破壊にも、根本治療の可能性が生まれつつある今、ご自身の治療に再生医療を加えることで、未来の生活が変わるかもしれません。痛みを抑えるだけでなく、「壊れた関節を修復する」選択肢を--。気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
【参考資料・論文】
・Park et al., 2022. Clinical application of MSCs for rheumatoid arthritis.
・Wang et al., 2021. Mesenchymal stem cell therapy in RA: Current evidence and future direction.