肝臓が硬くなってしまい、肝臓が機能しなくなってしまう「肝硬変」。初期症状がほとんどないため、重症化した状態で発見されることも少なくありません。しかも一度、硬くなってしまった肝臓は元には戻らないとされていました。しかし近年、再生医療の研究が進んだことによって、治療の選択肢が増えるとともに、改善の兆しが見えています。ここでは肝硬変についてと、幹細胞を使った治療方法についてご紹介します。
<コラム監修者>
田中聡(たなか さとし)
表参道総合医療クリニック院長
大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。日本脳神経外科学会認定 日本脳神経外科専門医として、現在は多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。
◆目次
1.肝硬変とは?
2.肝硬変の重症度について
3.従来の肝硬変治療の限界
4.再生医療「幹細胞治療」で肝機能を回復させる
5.世界の最新研究では?
6.当院の幹細胞治療の流れ
7.治療費について
8.再生医療のメリットとデメリット
9.まとめ
┃1.肝硬変とは?
肝硬変は、肝炎や脂肪肝、アルコール性肝障害などの慢性的な損傷によって、肝臓の正常な組織が徐々に硬くなってしまい、機能が低下してしまう病気です。硬くなってしまうのは、体内での炎症や損傷などによって、正常な肝臓の細胞が線維組織に置き換わってしまうから。線維組織は主にコラーゲンやタンパク質で構成されており、本来は傷の修復や組織の再建に重要な役割を果たす組織です。しかし、慢性的な損傷で過剰に増殖すると、臓器や組織が硬くなってしまい、機能障害を引き起こしてしまうのです。この状態を「線維化」といいます。
<肝硬変の主な原因>
- ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)
- アルコール過剰摂取
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
- 自己免疫性肝炎
進行すると、肝機能が低下し、黄疸、腹水、肝性脳症など深刻な合併症を引き起こします。そのほか肝不全や肝がんへ進行するリスクも。一度、線維化してしまった肝組織自体を回復させることはなかなか難しく、早期発見と早期治療が大切とされています。
┃2.肝硬変の重症度について
肝硬変は、進行度に応じて「チャイルド・ピュー(Child-Pugh)分類」によって重症度を判定します。表の項目に合わせた検査結果を基準として、5項目の合計点でAからCの3つのグレードに分類します。
<Child-Pugh分類>
①各項目を評価し、点数をつける
評点 | 1点 | 2点 | 3点 |
---|---|---|---|
肝性脳症 | なし | 軽度(Ⅰ・Ⅱ) | 昏睡(Ⅲ以上) |
腹水 | なし | 軽度 | 中度量以上 |
血清ビリルビン値(mg/dl)* | 2.0未満 | 2.0~3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dl) | 3.5超 | 2.8~3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン時間活性値(%) 国際標準比(INR)** |
70超 1.7未満 |
40~70 1.7~2.3 |
40未満 2.3超 |
*:血清ビリルビン値は、胆汁うっ滞(PBC)の場合は4.0㎎/dl未満を1点として、10.0㎎/dl以上を3点とする
**:INR(International Normalized Ratio)とは、血液凝固能を示す検査値
②各項目のポイントを加算し、その合計点で分類する。
Class A | 5~6点 |
---|---|
Class B | 7~9点 |
Class C | 10~15点 |
グレードによって治療方針も異なります。
<グレードA>
一番軽度な肝硬変です。肝硬変の初期段階を指す「代償性肝硬変」と診断されることがほとんどです。肝臓はまだ正常に機能しており、症状はほとんどありません。患者によっては無症状で経過します。症状が出る場合は倦怠感や食欲不振などが現れます。
【治療方法】
治療 | 詳細 |
---|---|
生活習慣の改善 | 栄養バランスの整った食事を心がける。アルコールを控える。定期的に経過観察をしながら治療に取り組みます。 |
ウイルス対策 | ウイルスによって起きた肝硬変の場合は、飲み薬などでウイルス増殖を抑制し、肝臓の炎症を抑えます。 |
<グレードB>
代償性肝硬変から、肝臓が機能しない「非代償性肝硬変」への移行期です。この段階では倦怠感や食欲低下などの症状が現れるほか、腹水、黄疸、むくみ肝性脳症などの合併症が起こります。またグレードBに3か月以上該当する場合は、身体障害者手帳の交付対象となる場合があります。
【治療方法】
治療 | 詳細 |
---|---|
食生活の見直し | アルコール摂取を控えるほか、肝臓に負担のかかる脂質の多い食事をできるだけ避けるようにします。また定期的な診察も重要です。 |
ウイルス対策 | ウイルスによって起きた肝硬変の場合は、飲み薬などでウイルス増殖を抑制し、肝臓の炎症を抑えます。 |
<グレードC>
末期の肝硬変です。肝臓の機能が低下し、ほぼ機能していない状態です。それに伴い黄疸、腹水、意識障害、消化管の出血、肝性脳症などの合併症を引き起こします。合併症の状態や年齢などによって異なりますが、余命は約1年~2年とされています。
【治療方法】
治療 | 詳細 |
---|---|
根本原因の治療 | 肝硬変を引き起こしている病気が何かある場合、その病気の治療に取り組まなければいけません。 |
合併症治療 | 肝硬変によって起きている合併症自体の治療に取り組みます。 |
肝移植 | 肝臓そのものの移植手術を行って、正常な肝機能を根本的に取り戻す唯一の方法です。ただし、ドナー不足や高額な治療費、免疫抑制剤による副作用などの問題もあります。 |
┃3.従来の肝硬変治療の限界
これまでの肝硬変の治療は、ウイルスや生活習慣など肝硬変を引き起こしている原因対策や、症状緩和が中心でした。また唯一、線維化した肝臓を元に戻す治療である肝移植もハードルの高い治療として知られ、望んでもなかなか治療を受けられないのが現状です。
しかし、近年の医療分野の研究が進み、線維化した肝臓を再生できる可能性が出てきました。そこで注目されているのが「再生医療」です。
┃4.再生医療「幹細胞治療」で肝機能を回復させる
再生医療は、体の自然治癒力を引き出し、損傷した組織を修復することを目的とした治療方法です。肝硬変に対する幹細胞治療では下記の可能性が期待されています。
<肝硬変で期待できる効果>
- 線維化を抑える
- 肝細胞の再生を促進する
- 肝臓の炎症を抑える など
肝臓内にある情報伝達を助ける役割「星細胞」が肝臓の線維化に大きく関わっているとわかっています。幹細胞は、肝臓内にある星細胞「肝星細胞」の働きを抑え、健康な肝細胞の再生を促します。また、血流改善や免疫調整作用もあり、総合的に肝臓の環境を改善する可能性があります。
<幹細胞治療とは>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。「幹細胞治療」では、培養した細胞そのものを患部に注入します。
┃5.世界の最新研究では?
海外では、肝硬変患者に対する幹細胞治療の臨床試験が進んでいます。例えば、脂肪由来間葉系幹細胞を投与した患者が、6か月後に肝臓の線維化が明らかに改善したという前向きな報告もありました。
<臨床試験の報告の一例>
- 肝機能マーカー(AST、ALT、アルブミンなど)の改善
- 腹水量の減少
- 倦怠感の軽減など全身状態の改善
┃6.当院の幹細胞治療の流れ
当院では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する治療を行っています。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。
<①カウンセリング>
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
<②検査>
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
<③脂肪採取・血液採取>
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
<④幹細胞の培養・PRPの抽出>
幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。PRP療法の場合、採血を行い、その後遠心分離機にかけて、PRP(多血小板結晶)を抽出します。
<⑤幹細胞・PRPの神経根局所投与、髄腔内投与>
培養した幹細胞や、抽出したPRPを脊髄の枝である神経根に局所投与もしくは髄腔内に投与します。
<⑥経過観察>
治療後の効果について定期的に経過観察を行います。治療効果を確認しながら、リハビリを併用します。
┃7.費用について
再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです(すべて税込)。
項目 | 価格 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
PRP神経修復治療 | 1か所55万円 |
幹細胞培養上清神経修復治療 | 1か所44万円 |
幹細胞培養上清髄腔内投与 | 1回 55万円 |
脂肪由来幹細胞点滴投与 | 1回165万円 |
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 | 1回198万円 |
┃8.幹細胞治療のメリットとデメリット
幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
- 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
- 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
- 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃9.再生医療のメリットとデメリット
肝硬変は、肝移植を希望し、ドナーが見つからない限り「もう元には戻らない」と諦めるしかない病気でした。しかし、幹細胞治療という新しい選択肢によって、改善を望むことができるかもしれません。表参道総合医療クリニックでは、医学的根拠に基づいた再生医療を、オーダーメイドでご提案しています。もしも悩んでいる方がいましたらお気軽にご相談ください。
【参考資料・論文】
・Shi M, et al. Stem cell therapy in liver fibrosis: recent advances and future perspectives. (World J Gastroenterol, 2022)
・Kharaziha P, et al. Improvement of liver function in liver cirrhosis patients after autologous mesenchymal stem cell injection: a phase I-II clinical trial. (Eur J Gastroenterol Hepatol, 2023)