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2025.05.19

自閉症の子供たちの発育を助ける新しい可能性とは?再生医療で注目される「幹細胞治療」について

「言葉の発育が遅い」「子供と目が合わない」「強いこだわり行動がある」--。お子様に対してそんなお悩みはありませんか? もしかすると自閉症スペクトラム障害(ASD)の初期サインかもしれません。かつては「育て方が原因」と誤解されることもありましたが、現在では先天的な脳機能の違いによる神経発達の障害であることがわかっています。「この子の可能性をもっと広げてあげたい」「将来が不安」というご家族の思いに対して、今、医療ができる新しい選択肢が生まれつつあります。それが再生医療による幹細胞治療です。ここでは自閉症スペクトラム障害についてと、再生医療を使った治療法についてご紹介します。

<コラム監修者>

田中聡院長

田中聡(たなか さとし)

表参道総合医療クリニック院長


大阪医科大学医学部卒業。救急車搬送が日本で一番多い「湘南鎌倉総合病院」や「NTT東日本関東病院」にて脳神経外科医として脊椎・脊髄疾患、脳疾患、がん患者の治療に従事。その後、稲波脊椎関節病院で脊椎内視鏡、森山記念病院で脳・下垂体の内視鏡の経験。様々な患者様を診療するようになりました。しかし、脳出血や脳梗塞の方は、手術をしても脳機能自体は回復しないため、麻痺は改善しません。また腰痛が改善しなかったり、手術後も痛みやしびれが残る後遺症に悩まされている患者様を見てきて、「現代の医療では解決できない問題を治療したい」と表参道総合医療クリニックを開院しました。日本脳神経外科学会認定 日本脳神経外科専門医として、現在は多数の腰痛日帰り手術や、再生医療などを行い、多方面から高い評価をいただいています。

┃1.自閉症スペクトラム障害とは?

「自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)」とは、発達障害の1つで、対人関係が苦手、こだわりが強いといった特徴を持っています。場合によっては生活に支障をきたすため、福祉や医療のサポートが必要な場合もあります。病気などではなく、人生の早い段階から認められる脳の働き方の違いによって起こるものであり、子育てや環境が原因ではありません。

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<自閉症スペクトラム障害の特徴>

  • 目を見て話さない
  • 笑顔が少ないなど表情が乏しい
  • 名前を呼んでも振り向かない
  • 親の後追いをしない
  • オウム返しが多い
  • 同じ順序で行動することにこだわる
  • 音や匂い、光など敏感で過剰反応を起こすことがある
  • 抱っこされたり、触られたりすることを嫌がる
  • 言葉の遅れがある

早期に診断されれば、療育や教育的支援により社会適応が進むこともあります。しかし、現段階では神経そのものの発達を直接的に補う治療法は存在していません。

<「自閉症スペクトラム障害」という考え方>

以前、生まれつき脳機能が障害を受けていることによって発症すると言われている「自閉症」は、知的障害の有無や、言葉の遅れの有無などによって「アスペルガー症候群」や、「特定不能の汎用性発達障害」など別の症状として分類されていました。しかし、これらの障害の共通点として対人関係の難しさや、こだわりの強さなど、共通した特性も持ち合わせています。そのため、別の障害として捉えるのではなく、連続する1つの疾患として考える「自閉症スペクトラム障害」という捉え方が定着していっています。

┃2.自閉症における再生医療は何を目指すの?

私たちの体には、損傷した組織を修復しようとする力である「自然治癒力」があります。その中心には「幹細胞」の機能が大きく作用していると研究でわかり始めています。近年では、幹細胞を用いた治療が脳卒中後遺症や脊髄損傷、変形性関節症などに対して効果を上げ始めており、脳機能の異常が原因と考えられている自閉症スペクトラム障害に対しても応用が始まっています。

【幹細胞の力】

  • 神経細胞に分化する力
  • 炎症を抑える作用
  • 神経ネットワークを調整する能力

┃3.自閉症への効果と実際の研究成果とは?

幹細胞治療の中でも「間葉系幹細胞(MSC)」は、細胞間の情報伝達を担う炎症性サイトカインの抑制や、脳の神経系の情報伝達機能を担うシナプスの形成の促進など、脳機能のバランスを整える働きが期待されています。自閉症スペクトラム障害の子どもに幹細胞治療を行ったところ、神経発達上のポジティブな変化が認められたという報告もあります。

  • 言語理解や表出言語の向上
  • 感情コントロールの改善
  • 注意力や集中力の改善
  • 社会性の発達

<幹細胞治療・サイトカインカクテル療法とは>

幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。

幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。

患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。「幹細胞治療」では、培養した細胞そのものを患部に注入します。

>>幹細胞治療について

また、培養した際に生じる培養上清液には、幹細胞から放出されるサイトカイン(成長因子、神経保護因子、血管新生因子など)が多数含まれているため、これを治療に使用することもあります。それを「サイトカインカクテル療法」と呼びます。

┃4.当院の幹細胞治療・サイトカインカクテル療法の流れ

当院では、患者様自身の脂肪組織から幹細胞を取り出し、培養したうえで投与する治療を行っています。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。

<①カウンセリング>

事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。

<②検査>

感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。

<③脂肪採取・血液採取>

腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。

<④幹細胞の培養・PRPの抽出>

幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。PRP療法の場合、採血を行い、その後遠心分離機にかけて、PRP(多血小板結晶)を抽出します。

<⑤幹細胞・PRPの神経根局所投与、髄腔内投与>

培養した幹細胞や、抽出したPRPを脊髄の枝である神経根に局所投与もしくは髄腔内に投与します。

<⑥経過観察>

治療後の効果について定期的に経過観察を行います。治療効果を確認しながら、リハビリを併用します。

┃5.費用について

再生医療は保険適用外の自由診療となります。費用の一例は以下の通りです(すべて税込)。

項目 価格
医師による診察・カウンセリング 11,000円
感染症検査(採血) 11,000円
PRP神経修復治療 1か所55万円
幹細胞培養上清神経修復治療 1か所44万円
幹細胞培養上清髄腔内投与 1回 55万円
脂肪由来幹細胞点滴投与 1回165万円
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 1回198万円

┃6.幹細胞治療のメリットとデメリット

幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。

<メリット>

  • 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
  • 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
  • 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます

<デメリット>

  • 自由診療のため保険が適応されません
  • 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
  • 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります

┃7.再生医療のメリットとデメリット

自閉症スペクトラム障害は、あくまでも生まれつきの脳機能の異常で、環境や育て方が悪くて起こる障害ではありません。自閉症は「治す」病気ではなく「支える」個性であるとも言えます。これを再生医療という新たなアプローチによって「できることを少しでも増やす」という可能性が生まれつつあります。医学の進歩が、子供たちの明るい将来の手助けになるかもしれません。もしも発達障害に悩まれているのであれば、お気軽にご相談ください。

再生医療

>>自閉症・発達障害

【参考資料・論文】
・Efficacy and safety of mesenchymal stem cell therapies for ischemic stroke – Shen et al., 2024
・A review and meta-analysis of stem cell therapies in stroke patients – Hovhannisyan et al., 2024

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