乳がんの全摘出をするとどうなる?手術の方法やその後の経過

2023.07.27

乳がんの治療は手術が基本です。乳腺を全摘出(乳房切除術)するか、もしくは一部だけを切除して放射線治療を組み合わせるか、おもに2つの方法があります。病状によって選択肢が違ってきます。

乳がんの手術といって最初にイメージされるのは全摘出だと思います。乳房をすべて取り除いてしまうという方法に不安を感じる女性は多いでしょう。

しかし、乳房が失われてしまうのは一時的なことで、最近では乳房再建の技術も進化しています。自然な膨らみを再現することも可能になっていますので、それほど恐れることはありません。

では乳がんをどのように全摘出するのか、その方法や手術後の経過について詳しく解説します。治療法を理解しておくことで、納得して治療法を選べるようになるでしょう。

乳がん全摘出とはがんのある乳房をすべて切除する手術法

乳がんの手術には大きく分けて2つあり、1つは腫瘍の部分だけを取り除く乳房温存術です。もう1つは乳房切除術(全摘術)のことで、乳腺を全摘出します。

乳がんを全摘出する場合の条件

乳房温存術はしこりの部分とその周辺のみを切除し、乳房切除術は乳腺全体を切除します。

どちらの手術法になるかは病状次第で、乳房を全摘出するのは以下の条件に該当する場合です。

  • しこりの大きさが3cmを超える場合
  • しこりの大きさは3cm以下だが広範囲に広がっている場合
  • 手術前の薬物治療でもしこりが小さくならない場合

その他、患者さん本人の意思により、乳房切除術を選択することがあります。

乳房温存術は切除部分が乳房の一部であることから、再発の可能性があります。術後の放射線治療が必須になるため、放射線治療を希望しない人は全摘出を選択します。

また、見た目の問題から、乳がんを全摘出して乳房再建を選択する人もいます。

現在の手術の主流は、乳房の膨らみを維持できる乳房温存術ですが、切除する大きさや場所によっては乳房の形が大きく変形してしまうことがあります。そのため、

最近は乳房再建術の技術が向上し、元の乳房に近い膨らみを再現できるようになってきたことから、乳房切除術を選択する人も増えてきました。

なお、どちらの手術法を選択しても生存率は変わらないことが分かっています。このことを踏まえて、全摘出のメリットとデメリットを考える必要があるでしょう。

乳がんを全摘出するメリットはがん細胞をきれいに取り除けること

しこりの部分だけでなく、乳腺全体を切除するので、微細ながん細胞まですべてきれいに切除できます。

再発のリスクを限りなく低くできるのは大きなメリットです。

また、絶対ではないですが、局所再発率が低いことから、基本的に放射線治療は行いません。

乳房温存術の後に行う放射線治療は1回で終わるものではなく、平日5回×5週間の計25回行うなど、通院の負担もあります。

術後の通院治療の負担が少ないこともメリットのひとつでしょう。

デメリットは喪失感と後遺症のリスクがあること

全摘出によって乳房の膨らみは失われてしまいます。その後に乳房再建術があるとはいえ、一時的にでも大きな喪失感を味わうことになるでしょう。傷の大きさもショックを受ける要因のひとつです。

また、傷が大きいことから、術後の痛みや腕の動かしにくさなどの後遺症に悩まされる人も少なくありません。

肩関節が固定されないようにすることがとても大切なので、リハビリも必須になります。

乳がんの全摘出の方法と治療

乳がんを全摘出するには、いくつかの方法があります。どれが適切かは病状によって違いますので、医師の説明をよく聞き、理解することが大切です。

かつては、大胸筋・小胸筋まですべて切除するハルステッド手術と呼ばれる方法が一般的でした。

しかし痛みやむくみがひどく術後の生活への影響が大きいこと、また、見た目の問題などからも、現在はほぼ行われておりません。

オーチンクロス法とペイティ法の2つがある

オーチンクロス法(オーキンクロス法、オッキンクロス法ともいう)は、大胸筋と小胸筋を残し、乳房とリンパ節を切除します。

ペイティ法は、乳房と小胸筋、リンパ節を一緒に切除します。大胸筋は残します。

どちらを選択するかは、病状の広がり方にもよりますので一概にはいえません。

いずれせよ、大胸筋が残されているので、ハルステッド法のように術後に肋骨が浮き出て見える心配はありません。

乳頭と乳輪を残すかどうかも検討する

乳がんの位置にもよりますが、乳頭と乳輪を残す「乳頭乳輪温存乳房切除術」が選択できれば、その後の乳房再建術で、より自然な形で乳房を復活させることができます。

ただし、腫瘍が乳頭の近くにある場合にはこの方法が使えません。その場合は乳頭と乳輪も一緒に切除し、皮膚をできるだけ残すようにします。これを「皮膚温存乳房切除術」といいます。

いずれの方法が適切なのか、医師とよく相談するとともに、術後に自分がどうしたいのかも具体的にイメージしておくことが大切です。

リンパ節の切除はセンチネルリンパ節生検で確認する

センチネルリンパ節とは、乳がんのがん細胞が乳房以外に広がっていくとき、最初にたどり着くリンパ節であるとされているところです。

脇の下には10〜15個のリンパ節があります。センチネルリンパ節はその中の一つです。

リンパ節への転移が見られるかどうかはセンチネルリンパ節生検を行い、ここにがん細胞があるかどうかを調べます。

センチネルリンパ節にがん細胞がなければ,それ以外のリンパ節にも転移がないと考えられますので,腋窩リンパ節郭清を省略できます。センチネルリンパ節に転移がある場合は,原則として腋窩リンパ節郭清を行いますが,センチネルリンパ節の転移が微小(2mm以下)であった場合は,その他のリンパ節に転移が存在する可能性は低いため,腋窩リンパ節郭清を省略することも可能です。
引用元:Q23.センチネルリンパ節生検について教えてください。 | ガイドライン | 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版

リンパ節を切除すると、浮腫やしびれなどの後遺症が少なからず起こるため、省略できるなら手術をしない方が患者さんの負担は減らせます。

センチネルリンパ節生検がなかったころは、ほとんどの患者さんに腋窩リンパ節郭清が行われていましたが、現在はまずこの方法でリンパ節への転移を調べていますので、不要な手術を行わなくても済んでいます。

薬物療法を組み合わせる場合もあり

その他、しこりが大きい場合でも転移が見られなければ、手術の前に薬物療法を行うこともあります。まずは薬で腫瘍を小さくし、部分切除が可能なほど小さくなれば、乳房温存術も選択できます。

乳がんの全摘出をどうしても避けたい場合は、腫瘍のタイプにもよりますが、薬物療法を先に行う場合もあります。これも主治医とよく相談して決めていきましょう。

乳がん全摘出の手術をするときの入院期間や費用

乳がんの全摘出を行うときはどのくらいの期間や費用がかかるのか、入院に関わる知識も持っておきたいものです。

乳がん全摘出の入院期間

乳がんを全摘出する場合の入院期間は1週間前後です。

全摘出と同時に乳房の再建術も行う場合には数日プラスとなり、10日前後の入院が必要となるでしょう。

乳がん全摘出にかかる費用

乳がんの手術にかかる費用は、手術の種類や検査の方法、入院期間などによって違ってきます。

手術費のみなら30万円〜50万円程度ですが、そのほかに検査費用、入院中の食事代、差額ベッド代なども含め、総額で80万円〜100万円ほどかかるでしょう。

健康保険が適用されますので、実際の負担はこの3割となり、窓口で支払うのは20万円〜30万円ほどになると考えられます。

1ヶ月に支払う医療費が10万円を超えれば高額療養費制度を利用できます。年齢や収入に応じた区分があり、計算した自己負担の上限額を超えた部分が、あとから支給されます。

【計算例】
医療費100万円、自己負担額30万円

高額療養費の上限額表に従って計算した結果、自己負担額はおよそ87,000円ほどになるということです。

なお、高額療養費の算定は、1日から末日までを1ヶ月として計算されます。月をまたいで入院する場合は注意が必要です。

たとえば、5月15日から6月10日まで入院した場合は、5月と6月、2回に分けて請求しなくてはなりません。

乳がんの全摘出の入院期間はそれほど長くありませんが、月が分かれることで自己負担額も変わってきますので、その点も踏まえて入院する日を調整したほうが良いでしょう。

乳がんで全摘出しても乳房再建術で元通りにできる

乳房再建術は費用が高額になることから希望する人が少なかったのですが、徐々に保険適用の範囲が広がってきたこともあり、以前よりも選択肢が広がりました。

乳房再建術は、大きく分けて自家組織を使う方法とシリコンインプラントを使う方法があります。

自家組織再建は自分の体の一部を使う方法

自家組織再建とは、背部や腹部などから、筋肉や脂肪、血流などを一緒に移植して乳房を再建する方法です。

  • 腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)
  • 穿通枝皮弁法(せんつうしひべんぽう)
  • 広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)

などがあります。

自分の体の一部を使っているので、柔らかい自然な乳房が再建できるというメリットがあります。

一方で、自家組織をとったところに、決して小さくはない傷跡が残ってしまうこと、手術時間や入院期間が長くなることなどがデメリットです。

シリコンインプラントを入れる方法

インプラントを入れる方法は、1回目の手術で、乳がんを切除した部分にティッシュ・エキスパンダーと呼ばれる皮膚拡張器を入れ、皮膚を伸ばします。

そして2回目の手術でエキスパンダーを取り除き、シリコンインプラントと入れ替えます。

体の他の部位に傷がつかず、乳房の大きさなどもある程度は希望通りに再建できることが大きなメリットです。入院期間も短くて済むので、日常生活への復帰も早いでしょう。

ただし、体の中に異物を入れていますので、定期的なメンテナンスが必要になります。自然な柔らかさもないことと、手術が2回必要になるのもデメリットといえるでしょう。

乳房再建術のタイミング

乳房の再建は、乳がんの全摘出と同時におこなう方法と、時間をおいて行う方法があります。

同時に行う場合は、自家組織を使うかシリコンインプラントを入れて1回で手術を終わらせる一時一期再建と、いったんエキスパンダーを入れて皮膚を伸ばし、後日再建をする一時二期再建があります。

時間をおいて行う方法は二次再建といい、乳がんの手術から一定期間おいてからエキスパンダーを入れる手術を行います。数ヶ月かけて皮膚を伸ばし、十分伸びたところでシリコンインプラントと入れ替えることが多いです。

時間をおくほど再建の難易度は高くなるものの、技術も向上していることからきれいに再建することは可能です。

乳腺外科と形成外科の連携が必須

乳房再建を希望しない人の中には、費用の問題だけでなく、再建術に関する詳しい説明がなくよくわからなかった、乳がんの治療をした病院では適切に対応できる形成外科医がいなかったという理由で諦めてしまう人もいます。

乳がんの全摘出と乳房の再建をひとりの医師が行うわけではないため、乳がんの治療だけでなく、患者さんが求めるきれいな形に乳房を再建できる、経験豊富な形成外科医がいるかどうかが重要になってきます。

手術ももちろん大切ですが、その後の乳房再建術についても事前に説明してくれる形成外科医がいるところで治療を受けることをおすすめします。

乳房温存か、全摘出、どちらを選択すべきなのか

乳がんの状態により、乳房温存術と乳房切除術、両方選択できるケースがあります。その場合はどちらにすれば良いのか、非常に迷うと思います。

そんなときは、主治医の話をよく聞くとともに、セカンドオピニオンを求めることが大切です。

そして、自分でも情報収集をしながら、後悔しない方法はどれかを決めるのです。

セカンドオピニオンを求めよう

乳がんの手術は乳房温存術と乳房切除術の2つがあることを先ほどお話ししました。

乳房温存術は放射線治療がセットになります。乳房切除術は全摘出といっても、その後に乳房を再建することが可能です。

どちらもメリットとデメリットがありますので、もしどちらも選択できる状況なら、費用や手術の負担、今後の生活への影響などあらゆる角度から考えて決めなくてはなりません。

主治医の話では納得がいかなかったり、どのくらいの選択肢が用意されているか知りたい場合は、セカンドオピニオンを求めることをおすすめします。

発見した時期にもよりますが、乳がんは一刻を争うような病気ではありません。手術はやり直しが効かないですから、焦らず、セカンドオピニオンも参考にしながら納得がいくまで考えましょう。

乳房再建術についても理解を深める

乳がんを全摘出したときに最も気になるのは、大きな傷跡や乳房の喪失だと思います。乳房は女性にとってとても大切な体の一部ですから、乳房を失うことで女性としての自信まで失ってしまう人も少なくありません。

しかし、乳房を再建できるということは知っていても、具体的にどのような手術をするのかがあまり知られていないことや、費用に関する誤解などがあり、乳房の再建を検討しない人も多いのです。

乳がんの手術から時間が空いても乳房の再建は可能ですが、乳がんの手術と同時に行った方が体への負担が少ない場合もあります。仕事復帰などのスケジュールも考えつつ、どの方法が良いのかよく検討することが大切です。

最終的に乳房を再建しないと決めるにしても、よく理解した上でそう決めたなら後悔はないでしょう。

ただ、知っていれば乳房を再建したのに、と思わないようにするために、乳がんの全摘出と同じくらい、再建術についても理解を深めることが大切です。

乳がんを全摘出した場合の生存率

がんは5年生存率、10年生存率など、がんと診断されてからどのくらい生きているのかという割合が示されますが、乳がんは生存率が非常に高い病気です。

がんの統計5年生存率

5年生存率とは、乳がんと診断されてから5年後に生存している人の割合ですが、ステージ0〜Ⅰならほぼ100%、ステージⅡになっても90%を超える高い率を保っています。

なお、乳房温存術でも全摘出でも、生存率は変わらないとされていますので、手術の方法を選ぶ際に生存率はあまり気にしなくても良いでしょう。

生存率について一つ注意する点があります。この率は、5年後に生きている人の割合であり、再発するかしないかの率ではないということです。

たとえば、乳がんのステージⅡの生存率は96%と非常に高いですが、「100人中96人が生きている」という数字であり、その96人の中には乳がんが再発している人も含まれています。生存率=乳がんが治る率ではないという点に注意が必要です。

とはいえ、乳がんは早く発見するほど治る可能性の高い病気です。定期的な検査を受け、ステージ0〜Ⅰの間に見つかるようにしたいものです。

乳がん全摘出のその後の生活について

乳がんを全摘出したら、どのくらいで日常生活に戻れるのか、不安もたくさんあると思います。退院するころには体もかなり回復していますので、安心してください。

乳がん全摘出手術の傷跡は退院前に見ておいたほうが良い

乳がんの全摘出の手術の後は、かなり大きなものになります。実際に自分の目で見ると、思いのほか大きな傷にショックを受ける方もいらっしゃいますので、手術の前に医師から写真などを見せてもらうことをおすすめします。

傷口はどのように治癒していくのか、乳房再建術を行わない場合、乳房がどのように変形するのかなど、術後のイメージを持っておくと安心です。

1週間〜10日ほどの入院で、退院する頃にはだいぶ赤みや腫れも引いてきているはずです。もし帰宅してから腫れや浸出液などが見られたら、すぐに主治医に相談しましょう。

ゆっくりと日常生活に戻っていこう

退院する頃には、ほぼ元の生活に戻れるようになっています。ただし、術後の痛みの感じ方などは個人差がありますので、無理は禁物です。

リハビリも兼ねて体を動かすことは大切ですが、家事など家のこともあまり無理せず、しばらくはゆっくりと過ごすようにしてください。徐々に元の生活に戻していきましょう。

リハビリで肩関節の固定やリンパ浮腫を予防する

乳がんの全摘出を行なったあとのリハビリはとても大切です。術後に腕や肩を動かさないと、そのまま関節が固定されてしまうことがあるため、医師や専門家の指導のもと、リハビリを継続して行いましょう。

肩周りを十分に動かすことは、リンパ浮腫の予防にもつながります。

  • 肩の上下運動
  • 肩関節を回す運動

などを行います。

手術の直後はドレーンが入っているため、指のグーパー運動など無理のないものから始め、ドレーンが抜けたら積極的に腕や肩を動かしていきます。

仕事復帰は体調を相談して時期を決める

仕事復帰できる時期は、体調の戻り具合と仕事の内容によって個人差があります。

大きな手術をしたのですから、あまり無理せず、徐々に復帰できるのが理想です。

早く復帰しないとと焦る気持ちもあるかもしれませんが、ゆっくり進めていきましょう。

ブラジャーは専用のものを用意しておくと便利

乳がんの全摘出をしたら、専用のブラジャーを使用することをおすすめします。

手術の直後は、しばらく傷跡が痛むでしょう。傷跡に負担がかからない優しい素材でできており、前開きで着脱が楽なものがおすすめです。ワイヤーの入っていないものを選びましょう。

2ヶ月くらい経って傷跡が落ち着いてきたら、ワイヤー入りのブラジャーも使用できるようになります。

左右差があってバランスが悪いときは、補正パッドを使って調整するとよいでしょう。乳がんを経験した人用のブラジャー専門店もありますので、術後の状態に合わせて選べるようになっています。

乳がんを全摘出しても乳房を再建することは可能

かつては、乳がんの手術というと全摘出(乳房切除術)が主流で、しかも、大胸筋まで一緒に切除してしまう方法であったため、女性にとっては非常に辛い治療でした。

しかし最近では、乳腺だけを取り除く方法が一般的になってきているため、乳房の再建も容易になりました。乳がんの手術と同時に乳房を再建できれば、喪失感も少なくて済むでしょう。

乳房再建術も保険適用される範囲が広がりましたので、以前のように費用の問題で再建できないということも少なくなってきています。

傷跡も大きく、できれば乳房を温存したいという人も多いですが、病巣をきれいに取り除けるという大きなメリットもあります。どの治療法が最善なのか、医師とよく相談のうえ、ときにはセカンドオピニオンも求めながら決めることが大切です。

一番上に戻る
お電話でのお問い合わせ 03-6803-8262お電話でのお問い合わせ 03-6803-8262 メールでのお問い合わせメールでのお問い合わせ