乳がんの放射線治療の進め方や費用、治療後の副作用まとめ

2023.07.27

“”乳がんの治療は手術、放射線治療、薬物(化学)療法の3本柱があり、病状に合わせて選択していきます。

放射線治療と聞くと体に良くないのではないかと不安になる人も多いと思いますが、再発を防ぐことができるとても重要な治療です。できる限り体のほかの部分には影響のないように治療を進めていきますので、あまり不安に思わないでください。

どのような治療が行われるのか、その方法を知っておけば心配も減るでしょう。わかりやすく説明しますので今後の参考にしてください。

毎日通院するなどやや大変な面はあるものの、がん細胞を根絶するために必要な治療です。副作用も限られていますので、放射線治療が必要だと診断された人は安心して受けてください。

乳がんの放射線治療の必要性

乳房温存術を選択した場合は、放射線治療が必須となります。

乳房を温存した場合、目に見える腫瘍しか取り除いていないため、小さながん細胞が残っている可能性があるためです。

乳房部分切除術後の全乳房照射により,乳癌再発,乳癌死のリスクを低減でき,さらに現時点では全乳房照射を安全に省略できる患者も明らかではないことから,乳房部分切除術後には全乳房照射を行うのが標準治療である。
引用元:BQ1 StageⅠ-Ⅱ乳癌に対する乳房部分切除術後の放射線療法として全乳房照射は勧められるか? | 放射線療法 | 乳癌診療ガイドライン2022年版

 
手術の目的は目の前にあるがん細胞を取り除くこと、放射線治療の目的はまだ見えていない小さながん細胞まで死滅させることです。

放射線治療を行わなかった場合に局所再発率が高くなることが、さまざまな研究からわかっています。手術で取りきれなかったがん細胞を放射線治療で根絶することが生存率を高めることにもつながります。

乳がんの放射線治療の方法

放射線治療は、乳がんの手術の後に行うものです。どのように進んでいくのか、説明します。

放射線の種類

放射線は光とは違い目に見えないもので、熱もありません。

  • X線
  • γ(ガンマ)線
  • 電子線

などがあり、病状に合わせて選択されます。

放射線は人の体の細胞を通過することができ、細胞にダメージを与えるものですが、その性質を利用してがん細胞を死滅させるのが放射線治療です。

ダメージを与えると聞くと不安になる方もいらっしゃいますが、正常な細胞はダメージを受けにくいので心配しないでください。レントゲンを撮るときにはX線が使われていますが、健康にはなんら問題がないと思います。

乳がんの治療のためのX線はレントゲンより強いエネルギーを発しているものの、手術で取り除いた病変部分の周辺のみにあてるので、がん組織だけを効率よく攻撃していきます。

他にも電子線、重粒子線を使った治療法もあります。

放射線治療の進め方

乳がんの手術は乳腺外科の医師が行いましたが、放射線治療は放射線専門の医師が行います。

これまで患者さんが受けてきた検査や治療内容、手術後の病理検査の結果などを踏まえて、乳房のどの位置にどのくらい放射線を当てれば良いのかなど、今後の治療方針を決めます。

放射線を当てる位置が決まったら、消えにくいインクで印をつけられます。この印はとても大切なもので、放射線治療が終わるまでつけておきます。

乳がんの放射線治療の期間や回数

放射線治療にかかる期間や回数は人によって違いますが、1回の照射時間は数分ととても短いです。準備を含めても、10分〜20分もあれば終わるでしょう。

1日に1回、それを平日に毎日行うのが基本です。

標準的な治療回数は、

  • 週に5日
  • 5週間続ける
  • 合計25回

となっています。

1回の治療時間は短いものの、毎日通院しなくてはならないので、仕事復帰を考えている人はうまくスケジュール調整をしながら、無理のない治療を続けていきましょう。途中で休むと効果が低下する可能性がありますので、計画通りに進めていくことがとても大切です。

最近では、通院期間を短縮できるように、1回の放射線の照射量を増やして回数を減らす「寡分割照射」が行われる場合もあります。

従来の方法と比べ、再発率や生存率に差がないことが様々な研究からわかってきたため、欧米では寡分割照射が標準的な治療になりつつあります。

早く治療を終わらせたいと考えている人は、主治医に相談してみましょう。

放射線治療は通院しながらの治療が可能

放射線治療は乳がんの手術の後に行いますので、多くの場合、通院での治療が可能です。

ただし、一定期間、通院を続けなくてはならないため、仕事に復帰する時期は調整が必要になるかもしれません。

また、体調の面から通院することが難しい場合は、入院しながらの治療になることもあります。患者さんの疲労が少なく、経済的にも無理のない方法で進めていきましょう。

乳がんの放射線治療の照射方法

乳がんの放射線治療は、病状によって放射線をどのように当てるかが違ってきます。

全乳房照射が治療の基本

乳がんを切除した方の乳房全体に放射線をあてる方法を全乳房照射といい、放射線治療の基本となります。

肺に放射線があたらないように、外側と内側の2方向からあてていきます。この方法を「接線照射」といいます。

治療台の上に仰向けになり、腕を上げた状態で、1回数分程度、放射線を乳房全体にあてます。

部分照射は他の細胞への影響が少ない

腫瘍があった部分にのみ放射線をあてる「加速乳房部分照射」という方法もあります。

これは、乳がんが腫瘍床(もともと腫瘍があった場所)の付近から再発することが多いためです。

腫瘍床のみを対象として放射線をあてることによって、他の正常な細胞への影響を限りなく少なくすることができ、治療期間も短くなるというメリットがあります。

一方で、放射線をあてていない部分から再発する可能性はゼロとはいえないこと、また、1回の放射線量が多いことから、皮膚の変化など見た目の影響も懸念されます。

全乳房照射と部分照射のどちらを選択すべきかは、まだ研究結果が不十分な点もあり、基本的には全乳房照射が選択されることが多いです。今後の更なる研究が待たれるところです。

ブースト照射は追加で放射線をあてる治療

全乳房照射を行った後に、さらに追加で放射線をあてる治療をブースト照射といいます。

術後の検査で断端(だんたん)陽性となった場合、再発を防ぐためにブースト照射を行います。断端陽性とは、乳房温存術の後の切り口にがん細胞が残っている状態のことで、がん細胞がないものは断端陰性といいます。

ブースト照射は乳がんの再発を防ぐ効果が高いとされており、特に若い人にすすめられています。

40歳以下,41~50歳,51~60歳,61歳以上のいずれの年齢層でもブースト照射による局所再発率の有意な低下を認めたが,特に40歳以下で局所再発率の低下が大きかった。
引用元:CQ2 乳房部分切除術後に断端が陰性の場合,全乳房照射後の腫瘍床に対するブースト照射は勧められるか? | 放射線療法 | 乳癌診療ガイドライン2022年版

このため、断端陰性であっても、年齢や病状によってはブースト照射がすすめられます。

DIBH(深吸気息止め照射)で心臓への影響を最小限にする

DIBHとは、大きく息を吸って肺を大きくし、心臓と乳房の間に距離を作ることで、心臓への影響を最小限にする照射の方法です。

左側の乳がんを摘出した方は左側の乳房に放射線をあてなくてはなりませんが、心臓の形や大きさによっては心臓に放射線が多くあたってしまうことがあります。

心臓への照射量を極力少なくするため、大きく息を吸った状態で止めてもらい、より安全に乳房のみに放射線があたるように調節します。

リンパ節切除後はリンパ節への照射は行わない

脇の下のリンパ節まで切除した場合、その後さらに脇の下に放射線をあてても生存率は変わらないことがわかっています。

ですので、腋窩リンパ節郭清のあとの脇の下のリンパ節への放射線治療は行わないとされています。

その他、胸骨の内側のリンパ節や鎖骨リンパ節への照射については、腫瘍の位置など病状によって判断されます。

一度照射したところにはしない

乳がんの放射線治療は、時間が経ってから副作用が出てくる場合があります。これを晩期副作用といいます。

副作用自体はそれほど重篤なものではないのであまり心配する必要はないのですが、晩期副作用は一度起こると治りにくい傾向にあるため、注意が必要です。

一度照射したところに再び放射線を当てると晩期副作用が出やすいとされていますので、基本的には同じところに放射線をあてることはありません。

脳転移や骨転移など特定のケースで行われる場合がありますが、十分な検討が必要です。

乳房温存術以外への放射線治療を行うケース

乳がんの放射線治療は、乳房温存術の後に行うのが一般的ですが、乳房切除術のあとに行うこともあります。

また、転移の状況によっては乳房以外にも放射線治療を行います。

乳房再建後に放射線治療を行うこともある

放射線治療は乳房温存術と組み合わせるのが基本ですが、乳房全切除術を行った方であっても、病状によっては放射線治療が必要になる場合があります。

特に、リンパ節への転移があった方やしこりが5cm以上の大きさになっていた方はリンパ節での再発の可能性が高いため、放射線治療をすすめられるケースが多いです。

病状にもよりますので、主治医とよく相談して進めていくことが大切です。

乳房を再建する場合、ティッシュ・エキスパンダーという皮膚の拡張器を入れている間に放射線治療を行うと、合併症が増えることがわかっています。

その場合には、乳房にシリコンインプラントを入れて再建してから、放射線をあてることが推奨されます。

遠隔再発への放射線治療

万が一、他の臓器へ転移してしまった場合、基本的には抗がん剤での治療になりますが、放射線治療が行われるケースもあります。

がん細胞を直接死滅させるためというよりも、再発によって出てきた痛みやしびれなどの症状を和らげるために行われます。

たとえば骨転移をしたときに、しびれや痛みを感じることがあり、それらの症状が放射線治療によって軽くなることがわかっています。

およそ8割の人が軽快しますので、患者さんが少しでも楽に生活できるよう、放射線治療を行うことがあるのです。

脳転移の場合の放射線治療

乳がんが脳に転移してしまった場合、脳を切り取ることはできませんから、放射線治療を行います。

脳全体に照射する「全脳照射」か、ガンマナイフなど転移している場所に限定して照射する「ラジオサージャリー」という方法があります。

どちらが適しているかは腫瘍の大きさや数によって違いますので、主治医とよく相談し、納得した上で進めていくことが大切です。

放射線治療にかかる費用は保険が適用される

放射線治療は健康保険が適用されますので、原則3割負担ですみます。

病状や照射回数などによって違ってきますが、15万円〜25万円ほどになります。高額療養費制度が利用できますから、実際にかかる費用はこれよりも少なくなるでしょう。

なお、1年間で医療費が10万円を超えれば、医療保険控除も受けられます。確定申告をすることで所得税が還付されますので、忘れずに手続きをしましょう。

X線やγ線を使った放射線治療は保険が適用されますが、陽子線や重粒子線を使った方法は保険が適用されず、自由診療となります。それぞれ、およそ300万円もの費用がかかります。

民間の保険でカバーできるかどうかは、契約次第です。将来の乳がんのリスクを考えて保険を選ぶなら、先進医療の項目もよく見ておくことをおすすめします。

乳がんの放射線治療の副作用について

乳がんの治療で最も心配されるのは脱毛だと思いますが、放射線治療による脱毛はありません。

副作用の程度も重篤ではありませんので、それほど心配する必要はないでしょう。

全身の倦怠感

放射線治療の最中か、もしくは終了してすぐにだるさを感じることがあります。

そのような時は無理せず休みましょう。しばらくすれば回復しますので、不安にならなくても大丈夫です。

皮膚の症状が出ることがある

放射線自体は熱くありませんので、あてているときに痛みや熱を感じることはないでしょう。

ただし、治療を終えてから2〜4週間経ったころに皮膚の症状が出ることがあります。

  • 日焼けをしたときのような赤みやほてり
  • ヒリヒリする
  • 皮膚のカサカサ感

これらの皮膚の炎症は、放射線治療が終われば1ヶ月ほどで収まるものです。放射線治療をしている間は肌へ刺激を与えないようにし、お風呂に入るときにはゴシゴシこすらないよう気をつけてください。

放射線治療を行うと汗腺がなくなってしまうことから、あてた部分は汗をかきません。その分、皮膚が乾燥しやすくなりますので、丁寧に保湿をしましょう。

皮膚の色ですが、放射線治療が終わると色素沈着によっていったん黒ずみができますが、いずれ元に戻りますので安心してください。

乳房の症状

乳房が硬くなったり、腫れたりしたように感じることがありますが、しばらくすれば回復するはずです。

放射線をあてていますので、治療後に出産した場合は母乳が出なくなります。ただし、手術をしていない方の乳房からは普通に出ますので、安心してください。

また、10年ほど経過したときに、乳房が小さくなる場合があります。

肺炎を起こす可能性がある

放射線治療を終えて数ヶ月たったときに、微熱や咳など風邪のような症状があり、それが続く場合には放射線肺臓炎(放射線性肺炎)を起こしている可能性があります。

なんとなくいつもの風邪と違う、なかなか治らないと感じたら、主治医に相談しましょう。多くの場合、特に重症化することはありませんので心配はいりません。

心臓への影響は少なくなっている

1970年〜1980年ごろは、放射線治療を行った乳がん患者で心臓疾患によって亡くなる方がいました。しかしそれは照射から10年〜20年経った頃の話であり、また、最近では照射の技術が格段に向上していますので、そのような心配は不要になりました。

左側の乳房であっても心臓に放射線がかからないように照射されますので、心配しなくても大丈夫です。

もし不安に感じるならば、納得がいくまで主治医の話を聞くことが大切です。

二次がんが起こる可能性はかなり低い

わずかではありますが、放射線をあてたことにより、二次がんを発症するリスクは0ではありません。

ただ、可能性としてはかなり低いので、二次がんを心配して放射線治療を行わないというのは現実的ではないでしょう。乳房温存術を選択するなら、再発を防ぐための放射線治療は必須です。

放射線治療ができない人

放射線のダメージは、正常な細胞に対して大きくないとはいえ、妊娠している場合は胎児への影響を考慮し、放射線治療は慎重に行わなくてはなりません。

また、放射線をあてるときは腕を上げた状態で仰向けになりますので、その姿勢ができない人は難しい場合があります。

いずれにしても、主治医とよく相談して治療方針を決めていくことが大切です。

放射線=怖いというイメージを捨てよう!

放射線治療というと、その言葉のイメージだけで敬遠したくなってしまう人がいますが、放射線は日々の暮らしの中でも浴びているものなのです。

空からも降り注いでいますし、空気中にも放射線物質があります。野菜や果物に含まれるカリウムにも、ごくわずかですが放射線物質が含まれています。つまり私たちは、放射線のない世界で生きていくことはできないということです。

問題なのは、放射線を大量に浴びることであり、乳がんの治療で、専門医のコントロールのもとに使用するのであれば、なんの問題もありません。

乳がんの治療は、手術と放射線治療、場合によっては薬物治療を加えることでほぼ治ることがわかっていますので、「放射線は怖い」という理由で避けるのはもったいないことです。

不安な人はよく理解できるまで何度も主治医の話を聞き、場合によってはセカンドオピニオンも求め、放射線治療がもっとも適切であるとわかったら、あまり怖がらずに治療を受けて欲しいと思います。

乳がんの放射線治療は再発を防ぐための大切な治療

乳がんの放射線治療は、手術で取りきれなかった、目に見えない小さながん細胞まで死滅させ、乳がんを再発させないための大切な治療です。

放射線という言葉に怖いイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、医療用の放射線は安全なものです。細心の注意を払って照射していきますので、あまり不安に思わなくても大丈夫です。

乳がんの放射線治療は通院しながら受けるのが基本です。平日に5回、5週間続けるといったスケジュールで進めていきます。手術の後もしばらく治療が続きますが、がんばっていきましょう。

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